健康インセンティブ計画!

あきた腎・膠原病・リウマチクリニック 富樫 賢

健康インセンティブ計画!

みなさんは 『インセンティブ』と言う言葉にどのような印象をお持ちでしょうか?
 田村先生から棒高跳びの高さに上がったハードルのバトンを受け取ってしまいました(どんな競技だろう・・・)。秋田県民の健康に対するインセンティブ効用について、思案している私案を述べさせていただきます。
 インセンティブの語源はラテン語の“incentivus(曲にあわせる→刺激する)”に由来するとされます。それが転じて現在は“報酬を提示することによって物事に取り組む意欲を高める作用。意欲刺激(新明解国語辞典 第八版)”の意味で用いられます。耳にすることが多いのはプロ野球選手や外資系企業の出来高契約などです。
 みなさんもご存じの通り、秋田県の人口は減少の一途を辿っています。
 私が小学生だった昭和の末、本県は120万人強の人口があり、日本の1%と習った覚えがあります。直近では 897,286人(2024年9月1日 現在)と、予想以上のスピードで減少。このペースはどんどん加速し、2050年には56万人まで減少すると予測(2023年予測)されています。しかしながら、以前の予測を見返すと予測以上のスピードで人口減少・高齢化が進行しています。
 2050年には私も70歳代になっておりますが、広い秋田県を維持するだけのインフラ(サービス業も含め)を保つことができるか悩ましい未来です。そのためには介護を受ける人を減らし、生きがいとして就労を希望される高齢者を増やすべく、一日でも早く秋田の健康寿命を一日でも長く延ばしていく必要があります。
 インセンティブに最も重要なのは行動経済学的な視点での対策です。
 行動経済学は2002年にダニエル・カーネマンらが、2017年にはリチャード・セイラーらがノーベル経済学賞を受賞し、市民権を得ている学問ではありますが、手短に説明させて下さい。
 古典的な経済学はすべての人間が利益を最大化する行動をとるとされていましたが、実際の世の中では不合理だと思う行動もとってしまいます。具体的な例を挙げると宝くじはローリスク、ハイリターンの代表として考える方も多いですが、1枚300円の年末ジャンボも実際に計算すると的中する確率は下一桁の300円を含め10%強ですし、期待値は150円以下とハイリスク、ローリターンの商材です。この数字だけをみると損をするだけですが広面の猫の足跡にはすごい行列ができあがります(私もときどき1枚だけ買いますが・・・)。このような不合理な行動をそっと修正するための方法としてナッジ理論があります。ナッジ(nudge)とは肘でつつく、背中を押すと言う意味があります。学生時代に実習中の質問に答えられず、隣にいる同期を肘でつついて代わりに答えてもらうあの現象です。身近な例ではコロナ禍にスーパーのレジ前にあった足跡が当てはまります。みなさん行動を強制されなくてもいつのまにかディスタンスを保っていました。
 行動を強制しようとしてもなかなか身につかず、長続きしません。行動経済学を用いることにより、インセンティブを与え行動変容につなげることができます。
 興味深い実例として大阪大学医学部附属病院で行われた手指消毒があります。コロナ禍前、来院された方にアルコールでの手指消毒を呼びかけても利用者が増えず、経済学科の教授のアドバイスを用いて手指消毒の機械に“ローマの休日”でおなじみの真実の口を付けたとの報告があります。0.6%だった使用率が報道をきっかけに一時20%まで増加。真実の口の撤収後も3%近い使用率を維持していたとのことです。好奇心を刺激するインセンティブが行動変容を促した良い例です。

 以前 “お散歩ビンゴカード”を作成しました。秋田駅前を中心としたランドマークを集め、散歩中にみつけたものに穴を開けていく仕様にしました。大変好評で患者さんの歩行距離は格段に増えたのですが、一枚ではなかなか継続には繋がらず、続編を作ろうにも単価が高く断念したことがあります。
 病院や自治体を動かすために予算が大きな壁として立ちはだかることが多々あります。しかしながら、本県では一人月額20万円の介護保険受給者に介護サービス費用がかかっているため(厚生労働省 令和5年度 介護給付費等実態統計の概況)、市町村負担割合の12.5%を考えると100万円の事業規模で4人・年 介護に至る期間を遅らせるだけで元がとれる計算になります。
 ここから私案になりますが、できるだけ低コストでできそうな健康インセンティブについて具体案を考えてみます。

①健康スタンプラリー
健康と対極にあるラーメンスタンプラリー方式などはどうでしょうか? 某タウン情報誌のようなスタンプラリーを各クリニックにポストカードを置いて応募を募るイベントです。

3×3 のビンゴ方式で
・ 特定健診 or ドック受診
・ 県医師会主催 or 後援 の市民公開講座への参加
・ インフルエンザ 予防接種
・ 自治体主催の健康イベントへの参加
・ 職場対抗 or 町内会 健康イベントへの参加

 秋田市もほとんど認知されていませんが歩行距離を競うイベントを開催しています。
 仮に賞品を2列集めたら応募でき、パルスオキシメーター 3名、すべて集めた人に血圧計 1名とすると、賞品予算 2万円。各クリニックにおく応募用のポストカード 1万枚で3万円程度なので費用は最小で5万円。行政や参加施設を募るのが大変でそちらの活動の人件費が・・・。
 あまりない取り組みだと思いますので、仮に全国紙やローカルニュース or さきがけに取り上げられれば医師会活動についての宣伝、健康への啓蒙にと十分もとがとれます。
例年 市民公開講座参加者の年齢層が圧倒的に高く、(いずれ高齢者になる)若い世代にひとりでも参加を促すためにも手を打つためにも有効かと考えます。

②点字ブロックを用いた健康増進、観光案内
金沢工業大学で歩道にある点字ブロックをQRコード化する試みがあります。すでに金沢では実証実験としてアプリで道案内をする試みを行っています。これを用いて観光地の案内、歴史探訪の情報を加え歩行距離を一歩でも増やしていただくことができ、多言語化することができれば増加しているインバウンド層の満足化→口コミやインフルエンサーに伝われば需要の増大に繋がることが期待できます。アプリ開発 → 予算がかかる
システムの特許交渉、点字ブロックの設置自治体の許可取り → 交渉がたいへん
これこそ自治体の協力がなければ難しいです。

③医療(medical)ネタグランプリ(略して M-1)
コロナ禍直前に医学部落研の学生に新作落語を披露してもらう予定でした。
イベントは叶いませんでしたがそれを拡大し、各大学の落研に医療ネタ(漫才、コント、落語とジャンルを問わず)を募集し大会を開く。交通費などかかりますが、秋田に興味をもってひとりでも秋田で研修してくれれば十分にもとは取れる。健康インセンティブとは意味合いが異なりますが秋田の医療を充実させるためにいかがでしょうか?

 まだいくつかあたためすぎている私案がありますが、今回はここまで・・・。
 いい案が思いついた!!という先生がいらっしゃいましたら、県医師会広報委員会へメールをいただければ幸いです。
 続いてのバトンを同門の大先輩で研修医時代からお世話になっている雄和もてぎクリニックの茂木睦仁先生にお願いしました。次号も是非 乞うご期待!

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