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<春夏秋冬>

発行日2005/09/10
秋田緑ケ丘病院  後藤 時子
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言霊
 
 最近の世の中を見ていて悲しいと思うことがある。それは、若者を中心に私たち日本人の言葉がかなり乱れてきていることである。今の若者は切れやすいと言われているが、その理由の一つに彼らの語彙の乏しさと言葉遣いの乱暴さがあるのではないだろうか。せいぜい「むかつく」「死ね」「うざい」しか発しない若者のなんと多いことか。この三つの単語しか選択肢がなければ、そのどれかに自分の気持ちをあてはめて話すことしかできないだろう。また、女性も乱暴な男言葉を使うようになった。今の若い女性は外見こそ必要以上に気にして着飾っているが、口を開くと出てくるのは男言葉で心はもはや女性ではなく、見聞きしているこちらが赤面してしまうような言動を平気でしている。
 私たちは自分で言葉を操って生きているように感じているが、実は私たちは言葉に操られて生きているのではないだろうか。言葉を一つ知ることによって、「そうか、こういう意味があり、こういう感情があるのか」と私たちは知り、それを使うようになる。語彙が豊富な人はそれだけ多くの感情を持っているといっても過言ではないと思う。日本人は、外国語に翻訳できないような繊細で感情の機微を細かく表す言葉をたくさん持っていたが、今はどれだけ多くの言葉が語り継がれているのだろうか。また、尊敬語や謙譲語の使い方。これらは子供の頃覚えるのが面倒で腹が立った記憶があるが、外国にはないこれらの言葉の美しさや言葉のもつ意味の美しさを大人になってから知り、古来からの日本人のあり方の美しさを改めて感じている。また、男言葉と女言葉。これらを使うことによって、女性はより女性らしい感情を持ち、自然に女性としてのふるまいを身につけていけるのだと思う。これらの言葉が日本人として気品や文化を育てていくためにとても大きな役割を果たしてきたように思うのだが、今では乱れた使い方が目立ち、とても残念に思う。
 先日ある飛行機の機内誌で、次のような投稿を見つけた。「鹿児島知覧特攻隊記念館で、ある男性に写真を撮ってもらおうと声をかけたところ、その男性に記念館を見てどう思ったか尋ねられたので、あまりにも胸が詰まって言葉にならない旨を伝えたところ、それを言葉にしないとだめだよと一喝され、さらに、言葉にできないから、主張が通じ合えないから、誤解を招いて戦争が起きるのだ。どう思い、どう感じたのか、それを言葉にして誰かに伝える、それこそが大人の使命なんだ。でなければまた同じことが繰り返されるかもしれない。だから言葉は言霊と書くのだ。と教えられた」という内容のものだった。言葉には多くの力がある。自分の心のあり方を定めていく力。他者と理解しあうための力。物事を伝えていく力。私たち現代人は言霊の力を再認識して、日々注意深く言葉を選び、自分の気持ちをきちんと相手に伝えられるよう努力することが、自分を保ち、日常の誤解や諍いをなくし、ひいては戦争を回避して平和な世の中を維持していくために一番大切なことではないだろうか。美しい日本語を使う努力をしたい。
 
 春夏秋冬 <言霊> から