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<春夏秋冬>

発行日2005/04/10
白根病院  鈴木 裕之
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ゆとり教育が残したもの -臨床初期研修の行方 第2
 
 先日、娘が通っている塾の保護者面談に行ってきた。塾の講師は開ロー番「学校のテストの点数ではもう高校入試の合否判定はできないんです。」と言った。不可解な顔を示した僕を見て、「ゆとり教育のせいで学校では簡単に90点くらいとれちゃうんです。それを見て安心していては高校は受かりませんよ」と続けた。なるほどとようやく理解できた。確かに学校のテストと塾のテストで明らかに点数に差があるのは気がついていたし、娘も「塾では学校で教えないことばかりやってる。」と言っていた。
 ゆとり教育に関する議論が盛んに行われ、見直し論の方が優勢な情勢になってきたが、こんな場面でも影響が出ているとは知らなかった。ゆとり教育導入後、登校拒否、学級崩壊などは減ってきているとはいえ、街角で目にする青少年の態度やマナーはけっしてよくなっておらず、ルールを無視した行動に周囲はただ手をこまねいてみているだけである。特に僕が気になるのは、競争をなくして横ならびの教育を施したはずなのに、覇気のない、閉鎖的な、諦めムードで、それをあらぬ方向に発散させている姿である。彼らが実社会に出てもうまく順応できず、競争の波に翻弄され、あげくの果てに犯罪に走るという図式。ゆとり教育はこういった図式をなくすためではなかったのだろうか?
 翻って、臨床初期研修の話。僕は現在の研修制度とゆとり教育が妙にダブって見えて仕方がないのである。研修医を「3K(きつい、危険、きたない)」の過酷な労働環境で鍛えたら(まさに学校での「詰めこみ教育」)、いい医者ができなくなった。だからもっといろんな臨床科を義務的にローテートさせ、医師としての人格を養ってもらいましょう(まさに「総合的な学習」)。給料を保証し、5時には帰れるし、週休2日制(まさに「学校週休2日制)でやりましょうと。まだこの研修を経た一人前の医師が世の目にふれることは少ないので見直し論は公にはなってないが、研修内容より給料の高い研修病院が超人気になっている現状、また指導医と研修医の関係が希薄で、誰が責任を持って指導するのかわからないプログラム、さらには指導医の教育体制の不備と見直すべき点は枚挙にいとまがない。厚生労働省が目論んでいる、この研修医制度で医師に対する風当たりをよくするなんて楽観論に賛同する声は現場では見あたらない。
 過日報道された中山文科相の「競争は悪だとしてきたが、社会に出ると競争社会で子供が落差に戸惑う。ゆとり教育は、ニートなどの予備軍の『大量生産』に手を貸しているのではないか」という発言に強く共感する。医者になってからも競争は必要で、「10年前の常識は今の非常識」という医学情報に対応できる柔軟性と「あいつがアッペのオペをやったならおれも」という競争心を研修医の間に身につけなければいつまでたってもいい医者などできるわけがないのである。
 
 春夏秋冬 <ゆとり教育が残したもの -臨床初期研修の行方 第2> から