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<春夏秋冬>

発行日2004/09/10
白根病院   鈴木 裕之
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コンビニ医者かデパート医者か? -臨床初期研修の行
 
 今年から医師の2年間におよぶ臨床初期研修が必修化された。厚生労働省は「医療の専門分化と若手医師の専門医志向、そして専門に特化した臨床研修により『人を診ずに病気を診る』と評される研修ではなく、適切な指導体制のもとで、効果的に、プライマリーケアを中心に幅広い診断能力と人格を涵養する研修」が必要であると述べている(同省のHPより)。いいかえれば、いきなり専門家集団の一員として最先端の医療にたずさわるようなデパート医者になるような研修はまかりならぬ、患者の近くで、何でも診られるコンビニ医者になれといっているような気が私はするのである。
 昨今の報道で承知の通り、医療事故の多発、医師の倫理感の欠如は、早急に改善すべき問題であると思う。そのために初期研修を重視することには私も賛成である。しかし今回の初期研修プログラムがそれなりの効果を上げることができるかどうかは疑問である。理由は種々あるが、短期ローテート(3か月)と責任の不明確さ、そしてなにより厚生労働省のビジョンのなさである。
 3か月の短期間ではなかなか突っ込んだ指導はできない。教える側も教えられる側もどうせ、3か月で終わりと思えば、身の入れ方がちがうのはやむを得ないであろう。
 また、現研修では研修医は研修している医局に籍を置くのではなく、研修センターに所属することになる。つまり指導医と研修医は別の部屋にいて、指導医はその都度、研修医を呼び出す必要がある。いわゆる「金魚の糞」研修ではなく、やろうと思えば「9時5時研修」も可能なのである。要するに指導医と研修医の関係が希薄で、お互いの思い入れが伝わらないことを私は危惧している。また、現プログラムでは2年間の研修全体を通しての責任者の姿が見えてこない。責任を自覚してこそいい仕事ができるのが世の常ではないだろうか。
 さらに私が驚いたのは、すでに制度がスタートしている現在でも厚生労働省からの研修病院に対する補助金の支給額が決まっていないことである。その一方で、研修病院に対して来年度の研修医に対する支給額等の処遇を明示せよとせかしている。給料が決まってないうちから働けといわれているようなものである。初期研修終了後の体制に関しても何ら道筋が示されておらず、道半ばで研修医は放り出される可能性がある。早期に後期研修に対する指針が示されるべきであろう。
 私はコンビニ医者からデパート医者に転向し、そしてまた現在はコンビニ医者として働いている。どちらかを選ぶのではなく、両者を経験して、その後にどちらかを自分で選択することができるような長期的なシステムが必要だと思う。約20年前、「金魚の糞」といわれながら、朝から晩までオーベンについて回って、本業の外科のみならず、救急外来、内科、そして人生研修を経た自分を思い起こすと、けっして悪い研修ではなかったなあと思うのである。


 
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