トップ会長挨拶医師会事業計画活動内容医師会報地域包括ケア介護保険について月間行事予定医療を考える集い学校保健関連

<春夏秋冬>

発行日2003/12/10
秋田緑ケ丘病院   後藤 時子
リストに戻る
犬の散歩
 
 秋もめっきり深まり、今年も残すところあとわずかとなってきました。私が犬を飼い始めて早7年が過ぎました。毎朝5時に起きて犬の散歩に出ていますが(早起きが好きなのではなく、この時間でなければ間に合わないだけです)、10月の初めから2月の終わり頃まではこの時間帯は真っ暗で、しかも寒く、真冬の吹雪の日などは出かけるのにちょっとした勇気がいるほどです。それでも真冬の空気は果てしなく澄んでいて、天気のよい日はぴんと張り詰めた空気の中で天上に月や星がひときわ美しく見えます。月明かりに照らされてまだ積もったばかりの綿のような雪は温かくさえ見えます。あたりは静まり返っていて人影もないその景色の中自分と犬だけがこの美しさと静寂を味わうことができるのだ、と思うとそれは自分へのご褒美だと思えるくらい感動します。
 犬を飼ってみるまでは、毎日雨の日も風の日も休まず犬を散歩に連れて行ってる人たちを見かけると、よく毎日散歩ができるものだ、と感心していたものですが、いざ自分で飼ってみると、犬を散歩に連れて行くということは必ずしも犬のためだけではなく、むしろ自分のためになるのだと思うようになりました。自分のためと思える一番の効用はやはりどんなときでも休まず散歩するようになる、ということでしょう。頭では毎朝散歩できればどんなにからだにいいだろうとわかっていても、いざ一人で始めるとなると、たぶんお天気のよい日だけになるでしょうし、そのうち「今日は風が強いから」「今日は二日酔いで体調が悪いから」「今日はなんとなく眠いから」などと次々と自分で言い訳を考えて、結局散歩の習慣はいつの間にか立ち消えになっているでしょう。なにより一人で早朝散歩をするというのはなんとなく気恥ずかしく、たぶん犬がいなければすることはないだろうと思われますが、今は犬がいるおかげで仕方なくという顔をしながら堂々と(?)毎朝散歩をすることができます。もちろん、前述したとおり、猛吹雪やどしゃぶりの大雨のときなどはベッドの中で目が覚めた瞬間から散歩のことを考えると憂鬱になりますが、眠い頭のまま半分ボーッとして起き上がり、殆ど条件反射のように無意識で散歩に出かけると、外の空気に触れて頭がしゃきっとしてきて、帰宅する頃には散歩を終えた充実感に浸っています。
 また、もう一つの散歩の効用は、やはり四季折々の変化を毎日肌で感じて楽しむことができるということです。私たちのようにもっぱら屋内で仕事をする人間は、忙しかったり余裕がなかったりすると、四季折々のうつろいに無頓着になったり気がつかずに過ごしたりしがちです。しかしそういう時にこそ、私たちはこの美しい自然に触れ心の余裕を取り戻さなければ、患者さんの言葉や心に寄り添えるようないい仕事はできなくなると思います。雪解け頃のクロッカスを見つけた喜び、公園の桜を愛でる感動、虫の声を聞く楽しみ、木々の紅葉の美しさの発見、冬の静寂、挙げればきりがないほど私たちは美しい自然に囲まれて毎日暮らしているのだとしみじみ毎朝感じることができます。こんな喜びを与えてくれた犬にはとても感謝していますが、当の犬も7歳になり、この犬種の寿命を考えるともう同じだけの年月を一緒に過ごせるかどうかわかりません。世は無常です。毎日散歩を楽しみながら日々の感動を大切にしたいと思っています。
 
 春夏秋冬 <犬の散歩> から