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<春夏秋冬>

発行日2002/10/10
秋田緑ケ丘病院  鈴木時子
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こんな大人にはなりたくない
 
 たぶん誰でも子供の頃、理不尽な大人の言動に傷つき、「こんな大人にはなりたくない」と思った経験が少なくとも一度はあるのではないでしょうか。私は子供の頃、大人が自分の話も開かずに物事を決め付け、一方的に怒ったり注意をしたりする場面に何度も遭遇し、「こんな大人にはなりたくない」とその度に思ったものでした。ですから大人になった今でも、自分の思い込みで物事を判断せず、まず相手の意見に十分に耳を傾けることを信条にしてきました。特に自分より弱者、例えば子供や患者さんが相手のときはなおさら気をつけるようにしています。実際話をよく聞いてみると、自分の思い違いや思い込みであることもあり、心を真っ白にして相手の話をよく聞くことの大切さを日常痛感しています。私の子供も、学校の先生などの大人が自分の話を聞いてくれず物事を決め付けて一方的に怒ってきた、と言って怒りを抱えて帰宅することがときどきあります。「どうして大人は話を聞いてくれないの?」「どうして違うといっても信じてくれないの?」「どうして知りもしないのに勝手に決め付けて知ってるようなことを言うの?」と子供達は大人への不信感を募らせます。大人になると多くのことを経験し、その経験から物事を推察するようになりますが、その経験というフィルターがあるがゆえに子供の頃のように真っ白な気持ちで人の話を聞くということができにくくなります。
 人生において何かを得たときは、必ず他の何かを手放していると思いますし、その逆に何かを失ったときには、別の何かを必ず得ていると思います。大人になって得たもの、それはどういうものでしょうか。得るのは一般的に知識や経験、地位や所得といったところでしょう。代わりに失うものは自由な発想や、夢、そして感動する心かもしれません。昔は今ほど情報も発達していなかったため、大人といえど知らないことがあまりにも多く、それゆえに大人も自由な発想や夢、そして感動する心をもつことができ、子供達もそんな大人の下で今よりも伸び伸びと生きていくことができたのではないでしょうか。今の時代は子供達にさえ自由な発想や夢、そして感動する心がなくなっているような気がしますが、それは子供達を育てる私達大人の責任ではないかと思うのです。私達大人が子供の頃のような自由な発想や夢、そして感動を忘れてしまうと夢のない社会、そして夢のない子供が育っていくのではないでしょうか。
 かつては子供だった大人のみなさん、「こんな大人にはなりたくない」と思った経験がおありなら思い出してください、子供だった頃の気持ちを。そして、そんな大人になっていないかを是非一度振り返って考えてみて欲しいと思います。
 
 春夏秋冬 <こんな大人にはなりたくない> から