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<春夏秋冬>

発行日2003/03/10
すずき眼科  鈴木明子
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戦う女
 
 私は開院時、カルテをB5判の大きさで始めました。ところが世は総てがA4判の流れ、まったく、何時ものことながら私の時流を読む力不足を痛感させられます。
 そんな訳で、時流には逆らえず、当院も開院6年目にしてカルテをB5からA4へ切り替えることと相成りました。そして、そこから私の果てしのない戦いが始まったのです。旧カルテの経過用紙が書ききれなくなったものから順次A4へと切り替え、新カルテの冒頭に旧カルテのサマリーを記載するという作業です。当初は、転居した患者さんもいるだろうし、この世からあちらの世界にいらっしゃった方もおられるでしょうから、この作業は一年を待たずして終了するものと高をくくっておりました。しかし、それから一年半経った現在、これが中々先の見えない作業となったのです。同様にB5からA4ヘカルテを切り替えた先生方は皆さん、「そんなことはしていない。」と口を揃えておっしゃいます。「知りたい情報があったらその時に旧カルテを引っ張り出せば良い。」と。そして我が師の一言が私を打ちのめす事となりました。「例えば書き換えなくてはいけないカルテが10,OOO冊あったとする。一日5冊書き換えたとして2,OOO日、一年250日働いたとして8年かかるぞ。」そうなのです。何故この小学生でも分かる算数が分からなかったのでしょう。算数は得意中の得意、算数の鬼とまで言われ、新潟大学理学部数学科にも在籍したことのあるこの私が…。不覚でした。
 そして、ここでもまた私の意固地な性格が災いします。「ここまで続けた事を今更止められるものですか!」ああ、そんなこと思わなきゃ良いのに。そう思うばっかりにこれに続く6年の戦いがあると言うのに。分かってはいるのですが、ほぼ1/2世紀培ってきた性格というものはそう簡単には動かし難いのです。
 厚生労働省が示した、医療のIT化のグランドデザインでは平成18年までに400床以上の病院では電子カルテの普及率60%以上とされていますし、日本医師会からも「日医IT化宣言」が示されました。また東京都では都と医師会が共通のフォーマットを作成して、5年間で600カ所以上の診療所と地域の中核病院数カ所に「電子カルテ」の共通システムを導入し、インターネットなどを通じた患者への情報開示や、医療機関同志の情報の共有化・連携強化を目指しています。そして、その導入に当たっては導入費の半額を都が医療機関に補助するなど「電子カルテ」導入の環境が整えられて来ています。
 きっと数年後、私のカルテ写しの戦いが終焉を迎えたころ、時流は電子カルテヘとその流れを確実なものとし、そこからまた新たなる私の戦いが始まるのでしょう。私はいつまでたっても『戦う女』なのです。
 
 春夏秋冬 <戦う女> から