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<春夏秋冬>

発行日2003/05/10
秋田緑ケ丘病院  後藤 時子
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笑いと免疫
 
 皆さんは笑いと免疫の関係についてご存知でしょうか。私が最初に笑いと免疫の関係について考えたのは、次女が白血病で入院中のときでした。白血病の治療は抗がん剤を用いますから、治療のたびに白血球数が激減します。だいたい1000~2000程度まで毎回治療で下がりますが、ひどいときは数百まで落ちてしまいます。もちろんこのレベルまで下がると抵抗力も相当落ちていますから、外出は許可してもらえません。しかし長期に渡る長くて辛い治療の間、小さい子供にとって外出や外泊するということは何よりの楽しみでしたから、いつも治療後の白血球の数に一喜一憂し、下がりすぎて外泊許可がおりないときは「白血球の数を上げて外泊できるようにがんばろうね」と娘を励ましながら毎日を過ごしていました。そんなある日、一緒に入院していた子供の母親が「白血球の数を上げるためには、たくさん笑うといいと言うよ」と教えてくれました。白血病の子供を持つ親たちは誰もがみな、苦しんでいるわが子を救うために多岐に渡って情報のアンテナを伸ばしていて、驚くほど多くの民間療法や代替治療についての情報を持っています。そのどれもが納得できるわけではありませんが、医師である私もなるほどと思う多くの民間療法や代替療法について、次女の入院中に多くの母親たちから教えてもらうことができました。この「たくさん笑うといい」という話もその一つで、そのときは特に根拠を聞いたわけではありませんがなぜかとても納得し、面白いと感じました。当時娘は3歳で、24時間の抗がん剤点滴や採血で痛い思いをし、吐き気のために食事も摂れず、毎日殆ど泣いて暮らしていました。こんな生活では確かに元気になりようがないと思い、その話を聞いてからは毎日一生懸命娘を笑わせる努力をするようになりました。その娘はその後無事治療を終え、現在まで再発することなく中学生になりました。それ以降、「笑いと免疫」ということには常に興味をもっていたのですが、昨年やっと関連記事をある医学雑誌で見つけました。そこには「日本笑い学会」の会長である関西大学の井上宏教授の講話が載っていました。井上先生のお言葉によると、アメリカでは1982年に「笑い(ユーモア)療法学会」というのができたそうで、そこでは「笑いと健康」について色々な研究や発表がされているようです。例えば、笑うと脳内モルヒネであるβ-エンドルフィンが分泌され、痛みを感じなくなるという発表や、日本において癌患者さんを吉本興業に連れて行き3時間心の底から笑わせ、その前後の血を採ってNK細胞数(免疫に関係している細胞で、癌患者さんの場合非常に低いことが多い)を調べたら、笑ったあとはみな正常値になっていたという報告があったそうです。また、慢性関節リウマチの患者さんに病院で寄席をひらいて笑わせたところ、それまでインターロイキンという痛みに関係する物質が高かった患者さんが、笑った後に三分の一にまで低下していたという報告もあったそうです。これらの報告を聞いて、やはり笑うことで人間の免疫が強くなる、白血球の数を上げることができるという、いっかの小児病棟で聞いた母親の話はやはり本当だったんだと納得しました。
 私たちは重い病気に罹ると「なぜ自分だけが…」と落ち込み、笑顔も忘れ、ますます暗く沈んでいきがちですが、そういうときこそ笑いが必要なのではないかと思います。例えば重い病気の方に対して、一緒に悲しんであげるのも一つの方法だと思いますが、場合によってはむしろ、笑わせてあげたほうが回復により貢献するのではないかと思います。「笑う門には福来る」という諺がありますが、まさにこれは本当に多くの真実を含んでいるのではないかと思います。皆さんも是非、辛いときこそ笑いを忘れずにがんばりましょう。
 
 春夏秋冬 <笑いと免疫> から