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<春夏秋冬>

発行日2023/01/10
秋田厚生医療センター  木村 愛彦
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大腸憩室炎
 
 昨年の五月の連休の直前、人生初の全身麻酔手術を受けた。S状結腸憩室炎のためである。初回の発症は約10年前だが、その後も軽微な再燃が時々あった。一昨年後半から昨年にかけては、比較的中等症で、2回の入院を余儀なくされ、患者さん、スタッフには大変な迷惑をかけてしまった。今後、再燃した場合は穿孔、腹膜炎を生じる可能性があり、その場合、腸だけではなく仕事にさらに大穴を開けてしまうし、何より生命の危機すらありうる。同僚には大腸疾患のエキスパートがたくさんおり、彼らの勧めもあり手術を受ける決心をした。炎症を繰り返しているし、病変部の状態によってはストーマを併設、後日の二期的手術なども必要になるとあって相応の覚悟で臨んだ。件の責任病変は膀胱との瘻孔が出来かかっており手術はなかなかスリリングだったと執刀医から聞いた。幸い病変の一期的切除と吻合が可能で、特に合併症もなく順調に経過し、約1週間ほどで退院できた。
 さて、この大腸憩室炎という疾患、頻度は実に高い。総合病院などでは常に数人の入院患者を有していると思われる。大腸憩室の保有率に関しては様々な検討があり、本邦では欧米に比べると少ないとはされているものの20%台から、報告によっては50%以上とするものもある。種々の検討で、年齢とともに憩室の保有率が高くなることから、加齢は憩室症のリスクファクターであることはほぼ間違いないとされている。
 しかしながら、実臨床における実感としては、若年者の憩室炎の患者さんは相当に多い。30代はもちろん20代の方も稀ならず見かける。先の憩室保有率のデータは全て、大腸内視鏡を受けられた方や、 CT colonographyを撮影した結果発見された頻度であるため、必然、調査対象はある程度の年齢の方や何らかの症状がある方が多いことが推定される。20?30才台で大腸内視鏡やCTを施行されることはきわめて少ないが、検査をすればかなりの頻度で憩室が見つかるかも知れない。
 手術を経験した後の実感としては、一言「絶好調」である。排ガス、排便すこぶる調子がよい。子供の頃からおなかをこわしやすく、下痢、腹痛の度に正露丸を飲まされていた。今回の手術後は人生50年以上時々感じていた腹痛を自覚することがなくなった。ひょっとしたら、今までの腹痛は子供のころから憩室が原因だったのでは?とすら感じてしまう。小児や若年者の憩室症に関する報告は皆無に近い。診療ガイドラインもあるが、わずか50ページ前後と、がんのガイドラインなどに比べると格段に薄っぺらい。手前みそだが、もっと研究が進んでも良い疾患群だと思う。
 
 春夏秋冬 <大腸憩室炎> から