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<春夏秋冬>

発行日2022/04/10
中通総合病院  大門 葉子
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見立ての心
 
 久しぶりの豪雪の冬も過ぎてしまえばあっという間で、道端にたくさん積み上げられていた雪もすっかり解けて、遠くの山に残るばかりとなりました。
 山に見られる雪形は、毎年決まった形に消え残り、「秋駒」のように駒ヶ岳と名のつく山の由来も、山容が馬(駒)に似ることや、雪形に馬の形が現れることからきているとか。そして雪形には2つのタイプがあるそうです。黒い山肌の窪地になっている部分に、残雪が白い馬となって消え残る一般的な「ポジ型」と、白く広がる残雪の中に雪の解けた山肌が黒い馬に見える「ネガ型」です。
 画像診断に使われるX線写真でも、X線の透過性の違いが白黒のコントラストとなって像をつくり、これがいろいろなものに見立てられています。おなじみの“coin lesion”やtram lineにhoneycomb lungとか、bamboo spineやfish vertebraなど。
 Mercedes-Benz signはご存じですか。コレステロール系胆石は写真に写りませんが、内部にガスを含む亀裂を生じると腹部単純X線写真でもそのガスの配列が特徴的な星形の透亮像を呈し、胆石と診断できるというものです。石といえば普通白いものを連想しますが、黒いガスの存在から胆石の存在を推定した先人に驚きです。単純写真で胆石を診断する時代でないためか固有名詞がいけないのか最近はあまり聞かれなくなりました。
 腸管も、内腔のガスを黒く見たり、逆にバリウムを使って白く見たりすることで名前の付いたサインがいろいろあります。進行大腸癌の注腸所見として有名なapple core sign、腸重積のカニ爪様陰影欠損、S状結腸軸捻転のcoffee bean signや腸管の急激な狭小化を示すbeak of bird signなどは古典的な「見立て」です。
 CTでは腸管の内腔だけでなく周囲も合わせて描出できることで、新しい見立てが生まれています。例えば“accordion sign”は、炎症や虚血によって浮腫状に肥厚して、粘膜が強く造影される腸管壁が蛇腹のように見える様子を示すもの。これを短軸で観察するとtarget signやhalo sign になります。そして腸管壁を栄養する小血管の拡張は、櫛の歯のように見えることからcomb sign と呼ばれます。なるほどと頷けるものも首を傾げてしまうものもありますが、その見立てのおかげで病変を理解したり発見したりするのに役立ってはいるようです。
 「何事の見たてにも似ず三かの月」とは芭蕉翁の一句です。三日月はそのままで美しい。奇抜な見立てを楽しむ俳人達をたしなめる句だそうで…(ちなみに三日月は釣り針、利鎌、舟などに見立てられます)。
 蛇足ですが反対に、三日月の名の付くサインもあって、大腿骨頭壊死の皮質下の透亮像がcrescent sign、菌球を伴った肺の空洞の隙間はair crescent signで、大動脈解離の血栓化した解離腔を単純CTで三日月型の高吸収に認めるhyperdense crescent signなど。何でもかんでも三日月に見立てるなと翁には呆れられそうですが。
 
 春夏秋冬 <見立ての心> から