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<春夏秋冬>

発行日2022/01/10
並木クリニック  並木 龍一
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HPVワクチン再開
 
 昨年11月の厚生科学審議会において「HPVワクチン定期接種の積極的接種勧奨差し控えを終了とする」と決定され、定期接種の積極的勧奨が今年4月より再開される事になりました。HPVワクチンは海外での大規模臨床試験で有効性、安全性が確認され、日本でも2009年から接種を開始、2013年4月に正式に定期接種となりました。しかし同年3月の新聞で「HPVワクチン接種により広範囲の痛みや歩行障害、認知機能障害などの重篤な副反応が起きるケースがある」と報道された事を発端に、厚労省は積極的勧奨を急遽取り下げる事態となりました。それは定期接種開始からわずか2か月後の出来事でした。
 2009年の接種開始から2014年までに約338万人の女性に投与され、有害事象が報告されたのは2584人と非接種者の0.08%でした。そのうち未回復とされた方は186人と非接種者の0.005%であり、主症状は頭痛、関節痛、筋肉痛など疼痛関連の有害事象が一定頻度で発症しています。また頻度は極めて少ないものの認知機能低下、不随意運動、失神など既存のワクチンではあまり報告のない神経系の症状がクローズアップされ副反応不安を助長したと推測されます。
 そもそも「有害事象」と「副反応」は違います。「投与された人に生じた好ましくないあるいは意図しない症状、疾患」は薬物との因果関係がはっきりしないものも含め「有害事象」と定義されます。そのうち薬物との因果関係が明らかなものが「副反応」です。しかし厚労省は「有害事象」を全て「副反応」という言葉で発表したのです。マスコミはワクチン接種と因果関係がない自殺、持病の致死性不整脈、悪性腫瘍などの死亡例を取り上げ「ワクチンの副反応で死亡例も」と報道しました。全身痙攣を起こしている少女の映像も何度も流されました。当然ながら接種率は低下(約70%が0.3%未満)、世界で最も低い国となり、先進国でありながら我が国だけ罹患率死亡率が増加しました。しかしその後の大規模調査で重篤な「副反応」とワクチン接種に因果関係があるという証明は得られなかったのです。
 そして大きく流れが変わったのが2018年がん免疫療法の開発でノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生の受賞会見です。氏は「マスコミはワクチン被害を強く感じる一部の人達の科学的根拠のない主張ばかり報じてきた。」続けて「科学では『ない』という事は証明できない、しかし『ある』ものが証明できない事はない。『証明できない』という事は科学的に見ればHPVワクチンが危険だとは言えないという意味だ。なぜこれを報道しないのか。」と強く現状について警告しました。これを機にマスコミはこの問題に触れなくなりました。積極的勧奨の再開はまさにこの本庶先生の科学的論破のお陰です。今後、この闇の8年間接種機会を逃した女性のキャッチアップも含め接種率が向上し、悲劇的な若年子宮頸がんが撲滅される事を切に願います。
 
 春夏秋冬 <HPVワクチン再開> から