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<春夏秋冬>

発行日2021/02/10
中通総合病院  大門 葉子
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カモシカ日和
 
 久しぶりに雪の多い今年の冬は、ただでさえステイホームが言われる中、散歩道を行く人も更に減りカラスの方が多いくらい。こんな季節にカモシカの一頭でもトコトコと歩いていたら、あるいはそっとたたずんでいるのを見かけたら楽しかろうと探すのですが、なかなか出会えません。この間までは河原や公園でしばしば目撃されたのにどこに隠れているのやら。足跡だけが雪の上に鮮明です。
 ところでカモシカのお名前を漢字で「羚羊」と書くのはなぜでしょう。これもまた人影まばらな図書館で借りてきた本をめくってみます。曰く、インパラやスプリングボックなどを含むウシ科のグループに「レイヨウ」があり、カモシカは入っていないのですが、混同されてこの漢字が当てられたとのこと。いわゆる「カモシカのような足」は、これらのスリムなレイヨウの足を指します。本当のカモシカの足はもっそりしていますものね。
 もう一つの漢字表記は「氈鹿」で、これは文字通り、カモシカの毛皮が毛氈(もうせん。毛からつくる織物)に使われたことに由来します。実際はカモシカは羊でも鹿でもなく牛の仲間です。高地を好むカモシカは「ヤマベコ」と呼ばれたりもしたそうです。
 名前についての記載にはこんなものもありました。地域によっては「ウタイジシ」「オドリジシ」(シシは大型で肉の多い狩猟獣のこと。他に鹿や猪など)との呼び名もあり、これはカモシカが歌ったり踊ったりするからではありません。残念。好奇心が強く、田植乙女たちの歌に聞き惚れていたり、猟師の踊りを見物している間に近寄られて仕留められたり、ということからきているとか。そしてこのようにちょっとおバカなので「バカジシ」とも呼ばれていたとか。何度読んでも想像しても可笑しくて泣けるお話です…。
 確かに目が合うといつもじっとこちらを見ています。蹴りをくれようか角でつつこうかと睨んでいるのかとこちらはビクビクしていましたが、実は逆で興味津々に相手を観察しているのでした。また、正面から見たとき、ほっぺの下が少し膨らんでいて、目が4つあるように見えるのが気になっていたのですが、ここには「眼下腺」なるものがあって、分泌液を木の枝や葉にこすりつけて縄張りにマーキングするのだと知りました。ちなみにカモシカの縄張りは500m四方くらいのようです。
 天然記念物なので今では捕獲は禁止ですが、第四胃(皺胃。ウシなので4つの胃をもつ)の干物は風邪や喘息に、角の粉末は万病に効用があり、肉は鴨のように美味だそうで、これもカモシカの名前の由来の一つとされています。
 にわかカモシカ博士になってきました…。おすすめのカモシカ本。「ニホンカモシカ・行動と生態」「カモシカの民俗誌」「ニホンカモシカ・ミミの一生」どれも大変面白いです。
 
 春夏秋冬 <カモシカ日和> から