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<春夏秋冬>

発行日2016/09/10
平野いたみのクリニック  平野 勝介
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黒い影
 
  4年前の夏も終わろうとしていたある日の治療中、黒い影は音もなく静かにスーッと私の頭の中に入って来た。突然の心の変調に治療を中断して診察室へ戻り、気持ちを静めようとコーヒーを飲み、数回深呼吸をして治療室に戻ったが、変調を来たした心は回復せず、何とも止めようなく不安感や焦燥感が夏の入道雲の様に心の中を徐々に覆っていった。その8日前の日曜日は残暑。暑い夏が好きな私は、夏を惜しむように秋田県立大学400mトラックへ出かけた。大病から10年、徐々に体力は回復し、それに応じてかなり走れる様になった。今年の夏の昼練習は今日が最後かと思うと、何故かその日は気合いが入り、大会以外では着用しない原宿は西スポーツ店の白地で縦に青ラインの入る取っておきのランパンを穿き、走る時は基本的に白で、最近何故か夏はランニングシャツではなくノースリーブが好きで、この日の上はやはり気に入っている白のノースリーブにした。ロングジョックの後、スピード練習もやった。妻が車にあったデジカメで走っている所を数枚写真に撮ってくれた。
  その頃から次の土曜日に行われる大曲の花火を見に行こうと妻を誘い始めた。妻は元来腰が重くて決断に時間を要してなかなか良い返事をしないので、毎日シツコク誘った。この様なやり取りが続くと、当日、必ず行く事になるのは、今までの長い生活で分かっていたが、大曲の花火の数日前から私の方が何故か急に面倒くさくなり誘うのを止め、当日はビールを飲みながらテレビで花火を見た。しかし、1時間とジッとして見ていられず「テレビの花火は飽きるなあ」と呟いて早々に眠った。翌日の日曜日も残暑だったが、何処へも行く気力が起きず、昼前に秋田大学の手形グランドへ走ったが、この程度の暑さに往路だけでフラフラとなり、グランドに来た証に1周軽く走って、復路は歩いたり走ったりして、やっとの思いで帰って来た。何か変だ。そう言えば、この1週間、仕事に根気が無くなり、そして治療中は必要以上の過緊張になったりしていつもより疲労感が強かった。その頃から黒い影は私の後から密かにゆっくりと侵入しようとしていたのである。「最近疲れが溜まっているのかなあ」とまだ軽く考えていた。心の変調を本当におかしいと気付くのは翌日の月曜日のことである。うつ病は、脳の神経伝達物質がうまく作動しないことで発症すると言われるが、その詳しい原因はまだ不明の様だ。自殺率が日本一高い秋田県では、うつ病が大きく影響していると考えられ、その要因として気候学的要因とりわけ日照量不足がその発症を助長していると説明されている。私は絶対にならないと自他ともに思われた病気の原因に日照量不足が関与しているとも思えない。8日前の秋田県立大学400mトラックの写真には黒い影の痕跡はない。
 
 春夏秋冬 <黒い影> から