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<春夏秋冬>

発行日2015/04/10
秋田厚生医療センター  木村 愛彦
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結紮しない外科医?
 
 最近はどのTV局のいつのクールでも医療ものドラマが必ずといっていいほど放映されている。内容はあまりにも現実とかけ離れていて、時に怒りすら覚えることがあるためほとんど視聴することはない。しかし、昨年末に放送された「失敗しない」女医の話は例外でいつも楽しく見ていた。内容はむしろ荒唐無稽で、あり得ない難手術を人間離れしたスピードで成功させる類だった。しかし、その外科医のハサミの持ち方や医学用語の使い方など、中々しっかりした監修が行われていることが伺い知れて興味深かった。
 中でも最終話、スーパー外科医の師匠の言葉は印象に残った。「川の水が流れるように基本手技を反復し、美しい最終術野を作る、それが私の考える理想の手術だ」理想の手術の条件はいろいろあるだろう。根治性に優れている、合併症が少ない、QOLの損失がわずか、整容性に富む、などなど。自分自身外科医となって20数年、何が理想なのかは未だ模索中だが、先のドラマの師匠の言葉は自分の目指しているものと何か通じる様な気がして心に残った。
 では手術の基本手技とは何であろうか?まずは切開、縫合、そして結紮であろう。研修医の頃はひたすら糸結びの練習に励んだ。上達して手術に参加、糸を結ばせてもらえるようになると、手術にも身が入ったし、少しだけ外科医になれたような気がした。
 ところが、手術器具の進歩により糸結びを実践することが、極端に少なくなった。臓器の縫合、閉鎖、吻合はほぼ器械の役割になったし、皮膚閉鎖を結節縫合で行う外科医はもはや皆無であろう。安全性、確実性は高まり、内視鏡手術などの飛躍的進歩が実現されたことは論を持たない。反面、最近は手術において正しく糸を結べる若手は非常に少ないという印象を受ける。無理もない、血管の閉鎖ですら、数々のシーリングデバイスが結紮にとって替わりつつある。実際の手術の中で糸を結び、深部で確実に結紮したり、血管にテンションをかけないで、なおかつほどよく食い込む力加減などを修得、実践していったりすることが困難になっているのだ。結紮という手技が不要になる時代が来るのかも知れないが、現在尚、失敗したら患者の生命すら脅かすかも知れない結紮が必要な場面は稀ならずあり、糸結びはやはりマスターする必要がある基本手技だ。
 自分は外科医を目指す研修医には糸結びを10万回練習してきなさい、と必ず言う。便利なデバイスがなければ、1回の手術で100回以上糸を結ぶことは珍しくないだろう。100例の手術に入るとすれば1万回、10万回は多すぎるとは思わない。そして、彼らは非常に上手になって戻ってくる。明日も彼らと基本手技を積み重ねて美しい術野を目指したい。
 
 春夏秋冬 <結紮しない外科医?> から