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<春夏秋冬>

発行日2011/04/10
平野いたみのクリニック  平野 勝介
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千秋公園の冬は夜
 
 大学でも陸上部に入ったので、根気など全く無縁の私が何故か40年以上も秋田で走り続けたことになる。千秋公園はクロスカントリー練習に最適で、冬場の走り込みはロード練習のほかに時々、シーズン中も朝練習、また雨でトラックが使用できない時によく走った。ざっと計算してみると千秋公園だけで、もしかすると2万kmも走ったことになる。その間、四季の変化を刻む千秋公園の自然は久保田城築城以来、普遍のものと思い込んでいた。本丸西側、八幡神社の後ろ側、埋門近くの樹齢250年と言われるケヤキの大木は気付いた時すでに60度くらい傾き、初夏の新緑から徐々に緑を濃くしていく様に毎年感動し、そして夏には息苦しいほどの緑で頭上を覆い尽くして秋に紅葉する。きっとこの木は250年前から傾いていて、これからもずっとこの営みが続くのだと思っていた。ところが、昨年(平成22年)5月13日突然に倒木し、私はこのニュースに衝撃を受けた。倒れ掛った場所がいつも走るコースで、「あわや・」と考えたからではない。この自然が普遍でなかったからである。考えてみれば平成元年には本丸北西隅に御隅櫓が再建された。再建と言っても元々は木造2階建てだったのがコンクリート4階建てになり、こんな重い建造物を作って大丈夫かと、当時も思ったものである。車イスなどのハンディキャップの方々も来館出来るようにスロープも整備された。これは悪い事ではないのだが、既存の階段が壊された。衛生上の問題から全てのトイレが水洗化された。歩きやすいようにと公園内の遊歩道が舗装され、それに伴い街灯も増えた。これらも決して悪い事ではないが、その度に公園内は何回も掘り返された。千秋トンネルですら堀を壊し、公園の一角を完全に切り崩してトンネルを置き、そして埋め直したものである。公園の西側には、お茶を入れるとおいしいと言ううわさの湧水があった。20年くらい前の夏、ランニング中に喉が渇き、一度だけ飲んだことがある。おいしくて2杯飲んだと記憶している。喉が渇いた時にまた飲もうと思っていたが、飲むのに不適としてかなり前に閉鎖されていると最近知り、確かめに行ったら板で塞がれていた。
 ケヤキの大木が倒れたあとに、ぽっかりと空が見え、ここからの光で新たな植生が始まるのかと考えたが、それどころかその数ヶ月後に隣の大木までが立ち枯れていた。今回の倒木は、40年以上も走っていて気付かない鈍い人間に、千秋公園がかすかに低い悲鳴を発したような気がしてならない。40年以上前、今より遙かに街灯が少なかった千秋公園の冬の夜は世俗から隔絶され、今以上の雪明りの世界で美しかった。昨年の11月、千秋公園に「本丸を整備します。」と注意を呼び掛ける看板がまた、多数立てられた。自然はそのままにしておく方が良い。
 
 春夏秋冬 <千秋公園の冬は夜> から