トップ会長挨拶医師会事業計画活動内容医師会報地域包括ケア介護保険について月間行事予定医療を考える集い学校保健関連

<春夏秋冬>

発行日2010/07/10
秋田県成人病医療センター  阿部 芳久
リストに戻る
トップは辛そうだよ
 
 ある子供がお母さんに涙目で訴えました。「お母さん、僕、病院に行きたくないよ。」お母さんは優しく声をかけました。「どうしたんだい。なんでそんな事を言うんだい。」子供はとぎれとぎれに答えました。「だって僕、お医者さんたちがとっても怖いんだもん。」お母さんは言いました。「病院には優しい看護師さんたちがいるじゃない。」子供は辛そうです。「看護師さんたちも、僕に冷たくするんだよ。」お母さんは今度はきっぱりと言いました。「お前は病院に行かなくてはならないんだよ。だって、お前は大きな病院の院長なんだからね。」
 よくある小話を病院バージョンにしてみました。他県のある病院長と話をした時、ここ数年、僕の仕事の大部分は人集めだよと言っておりました。秋田県内でも同様なのでしょう。先日、つけっぱなしのテレビの中で湖東総合病院の名前がイントロダクションに出ていたことから、滅多に見る機会のない病院関係のテレビ番組(自治体病院についての特集でした)を最後まで見てしまいました。主に赤字改善に挑む十和田市立中央病院の院長を取材したものでした。そこには病院再建プロジェクトチームの外部委員から厳しい言葉を浴びせられている病院長の姿が映し出されでいました。本人は優秀な内科医なのに、病院長になったばっかりにこんな辛い思いをしてと、つい考えてしまいました。当初からの経営に対する見込み違いは棚に上げられ、経営母体からは稼げ稼げとハッパをかけられ、何ともならない医師不足に悩み、スタッフからの要求は増加する中で、問題が起こる度に書類と会議が増えていく。病院長を引き受けたのだから当然だ、それだからやり甲斐があるんじゃないかという意見も当然あるとは思いますが。何であれ、組織のトップであることは大変なのだと思います。これに比べて一勤務医として働いている自分は何とのほほんとしていることか。
 最近、会社の中で役職につきたがらない若い世代が増えているとのことです。そこそこの収入があって家族がある程度満足ならば、あえて辛い思いをしてまで偉くならなくてもいいやということらしいのです。ただし、自分の要求だけはしっかり出すようです。こういう人ばかりだとどうなるでしょう。トップがいるから組織が成り立っているのは事実です。高まる要求と現実的に可能なこととの落としどころを如何に見極めるかが、これから若手に接するときのポイントのひとつになるでしょうか。テレビに出ていた病院長もきっと、とにかく忙しかったんだけれど、患者さんのことだけを考えて病院で働いていられた、医師になり立ての頃の自分をふと懐かしく思い浮かべる時を持ちながら、厳しい道に挑み続けることでしょう。
 
 春夏秋冬 <トップは辛そうだよ> から