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<春夏秋冬>

発行日2010/01/10
平野いたみのクリニック  平野 勝介
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春は曙
 
 転封となった佐竹義宣が1603年に築城を開始した久保田城は、元は神明山という台地で三つの高所からなり、その最高部をならして本丸とし、自然の斜面をけずり、また土を盛って土手を作った。太古はすぐ東にある今の手形山と連なっていたようである(渡部 景一著 久保田城ものがたり)。久保田城址の千秋公園は、今の手形山みたいなのを人力でやっと(見事に)ならした山なのである。秋田大学陸上部の練習に時々千秋公園を使う。入部当初はどこにでもある公園を想像していたが、60分以上のロングジョックでも一度置いていかれるとまず2度と会えない。そして公園の地形を隅々まで覚えるのさえ数ヶ月以上を要した。一年生のある日、いつものように置いていかれ、ヤケクソで今の明徳小学校付近で昔は水道山と呼ばれたあたりの明治時代に木で出来たプール(貯水池?)の跡だと言われる場所に行ってみた。プールの底は湿地の如くで一帯は草に覆われて静かだった。その奥は側室の屋敷があった所と聞いていたが、何か出てきそうな不気味な雰囲気でそれ以上は先に進めず、しばらく立ちすくんでいると、遥か向こうから陸上練習の一団が近づくのが見えた。物陰に隠れて、そっと後ろに付いたら先輩が気付き『あれっ平野、今までどこにいた?』『ずっと後ろに付いていましたが。』『・・・。』走っている時は、脳血流が減少して思考力が鈍くなるので、それ以上の追求はなかった。
 千秋公園で花見酒を覚えて毎年千秋公園の春を心待ちにした。かなりの時を経たある日、木々の緑の美しさに気付いた。花見の喧騒が終った春から夏の千秋公園西側の緑に息苦しさを感じるほど感動した。
 紅葉はヒトのチアノーゼを見るようで絶対に愛でる気になれないと思っていたが、『今年は紅葉の当たり年』と聞いた年の素晴らしい紅葉を見てから、秋の千秋公園も西側の広葉樹が見事である。
 しかし、学生の頃からうすうす気付いていたが、実は千秋公園が最も綺麗なのは冬の夜なのである。広葉樹は葉を落として町の明かりが入り、それに雪明りも加わって街灯が整備されていない頃でさえ本が読めるほど明るい。雪の上を走っていると、よく自分でない足跡を見つける。私同様に他人の足跡も周を重ねて、逆走しない限り出合うことはない。その人の実力を知ろうと足跡に立ち入らないようにしてストライドを比較し、その変化を観察する。相手も私の走路に入ってこない。お互い同じ事を考えているかと思うと、孤独の世界ではない。千秋公園の真冬の雪は美しく、世俗をことごとく寄せ付けない。
 大学入学の春は、人生の曙。千秋公園の冬は夜。これから美しい季節が始まる。
 
 春夏秋冬 <春は曙> から