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<春夏秋冬>

発行日2009/04/10
すずきクリニック  鈴木 裕之
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誰が逃げた鳥をカゴに戻すのか-初期臨床研修医制度の行方 第6報-
 

 2009年2月18日、厚生労働省と文部科学省による「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」が『良医』を育てるために始めた初期臨床研修制度の見直し案をまとめた。今回の注目点は都道府県別に募集定員の上限を設けるという点だ。これは都市部の研修医の募集定員を減らし、その分を地方に回すという仕組みを作るということだろう。2004年度から始まった今の研修制度では医学部を卒業したての研修医が研修先を自由に選べるようになったため、出身大学に残る研修医が少なくなった。そのため人手が足りなくなった大学病院が地域の病院から医師を呼び戻し、地方の医師不足を加速させ、医療崩壊を招いた。医師不足問題の原因をこの初期臨床研修医制度に求めることには異論のあることは承知しているが、私は新しい研修制度にその原因の大半があると考えており、いままでこの欄で5回にわたって持論を展開してきた(http://sabaoth.net/acma/kaihou/season/season_n.cfm?cd=83など)。
 他の注目点として今回の見直し案では現行の7つの必修診療科目を内科や救急などの3科に減らすこと、いままで2年間だった研修期間のうち2年目は将来専門とする科の研修に入れることなども提言されている。これは私が二十数年前に受けた研修とほとんど同じ内容だ。私は1年目に外科の他に麻酔科、内科、心臓外科をローテートし、2年目は外科研修に専念した。すなわち見直し案では「従来の研修医制度の方がよかったのでまた戻します」といっているように思える。
 さて話は都道府県別の募集定員に戻る。2010年からは研修医の自由意志で選ばせていた初期研修病院を国が県毎に定員を設けて規制するということになる。それまで県単位で医師の偏在化をある程度食い止めていた大学病院の医師派遣機能をもう一度立て直そうという意図がくみ取れるが、果たしてそううまく話が進むとは私には思えない。「先輩は自由に空を飛べたのに、自分たちはカゴの中だけになるのか?」という医学生の声が聞こえてきそうである。
 秋田市医師会の編集員会(私が編集員長を務めている)が企画した座談会「初期研修を終えて」(秋田市医師会報2009年2月号に全文を掲載)では一人でも多くの研修医に地元に残ってもらえるために必要なものは秋田大学、そして秋田県を魅力あるものにすることが一番大切だという結論に至った。こういった視点は今回の合同検討会の報告書には見あたらない。研修医を都道府県毎の定員という枠でしばることはできても、実際に研修を受ける彼らにやる気を持たせ、研修を終えた充実感を与えることができるのだろうか?それができなければ患者さんの気持ちを理解して、患者さんのために働く『良医』を育てることはできないだろうと私は考えている。逃げた鳥をカゴに戻すには相当な「魅力」が必要なのにそれを示す人がいないのである。

 
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