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<春夏秋冬>

発行日2008/01/10
すずき眼科  鈴木 明子
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新春に思う
 
 「あっという間に」という言葉に年々思い入れが増していき、一年が過ぎまた新しい年を迎えました。「まだ、欲しぐもね年いってな。先生だば、いっつも変わらねくてわげな。」と患者さんは言ってくれます。「ありがど。だども他の事だばいっぺ不公平あるども、年だげだば、これ平等だものな。だんだんわげぐなる人いだら、それだば化け物だべ。一緒に年取っていご。」今年もまたこんなやりとりが繰り返されることでしょう。
 そんなやりとりが繰り広げられる私の診察室は、縦横3mほどの小さな一室です。眼科の診察上、暗室を作らなくてはならないため窓はなく、患者さんの出入り口以外は壁壁壁とじつに殺風景です。もっとも、診察室がカラフルという話もあまり聞きませんが・・・。ただ、私の診察机の正面の壁には開業当初からの眼球の断面図の横に何時の頃からか幾つかのふくろうの小物が掛けられ、無機質な診察室を和ませています。ふくろうは外見の可愛さや「福来ろう」とか「不苦労」とか縁起物のようにいわれて人気者のようで、多くの小物を町で見かけますが、私の心をほっとさせてくれる壁のふくろう達は白内障の手術をした八十過ぎの御夫人からのプレゼント、総て手作りです。「先生がふくろう好きだっておっしゃるからふくろうを沢山作るようになったけど、そのお陰だか私も元気で幸せでいられる。」と一つ一つの作品を上小阿仁から持ってきてくれていた優しい笑顔が「家族にかける苦労を思って老人施設に入るので」の言葉を最後に2年ほどお会いできていないのは寂しいことです。でも、私がふくろうに心を引かれたのは可愛いからでも縁起物だからでもありません。ギリシャ神話に出てくるアテネの横、肩や杖の上にはいつもふくろうがいてアテネに知恵を授けていたという話を聞いてからでした。自分の勉強不足を棚に上げ、ふくろうに頼るなんて情けないと叱られるかもしれませんが、「難解な症例に出会ったときは知恵を授けてね」と思う気持ちも確かにあります。しかし、当然「この症例は斯く斯く然々ですよ」などとお告げがある筈もなく・・・。ではありますがこのふくろう多くの知恵を私に授けてくれるようです。この、3m四方のわずかな空間、ここを訪れる人達、年齢も様々、職種も様々、家族構成も様々でそしてその人たちが歩いてきた道といったら想像もつきません。そんな患者さんたちが、この狭い診察室でちらりとみせる人間模様や人生観。そこから私は多くのものを教えてもらいました。きつそうなお嫁さんと大分痴呆が進んだようなおばあちゃん。でも、お嫁さんの動き一つ一つ、言葉がけ一つ一つにとても温かいものを感じます。そんなお嫁さんの口からは決まって「おばあちゃんは若い頃、本当に良くしてくれたから。」という言葉が返ってきます。表面上は仲睦まじそうな二人からその逆を感じる事もあります。人に誠心誠意尽くすことは報われないと思うことが多々あるにせよ結局は己のためなのだと再認識したりします。仁井田で特に教えられたのは自然と共に生きることの厳しさです。私は人間の生活基盤を支えている根本は農業だと心底思っています。科学が進み農作業も楽になりと思いがちでしたが、99%がお天道様のご機嫌しだいなのだとここに来て、農作業に従事している方達の顔を見て肌から感じました。
 私の人生の大部分を過ごす診察室。今年も私はここ仁井田の3m四方の小さな空間でふくろうに見守られながら多くの事を学んでいこうと思います。
                                        
 
 春夏秋冬 <新春に思う> から