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<春夏秋冬>

発行日2007/09/10
すずきクリニック  鈴木 裕之
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外科医も捨てたもんじゃない!
 
 2007年7月8日付けの読売新聞「編集手帳」では最近の外科医志望者の減少をテーマに語られていた。私の目から見ても外科医をめざす医学部卒業生は減っており、彼らが理由に挙げる「3K=キツイ、キタナイ、キケン」もうなずける。その他にも医療訴訟の問題や金銭的処遇の不十分さなどがその背景にあるという指摘ももっともである。でもそれは外科の一面だけにとらわれて本来の姿を見失っているのではないだろうかと私は思う。
 「編集手帳」によれば世界屈指の肝臓外科医として著名な幕内雅敏先生は手術中、集中力を高めるために演歌をかけるという。時に十数時間にも及ぶ緊張の連続を「耐えるのが好きって言うか、耐えざるを得ないんですよ」と幕内先生は語ったそうだ。幕内先生と比較することはたいへんおこがましいが私も10年ほど前、大学病院の手術室に福山雅治のCDを持ち込んで、彼の歌を聴きながら手術に集中したことを思いだした。「HELLO」「Melody」「Peach!」は何度聴いたかわからない。当時、食道がんの手術は朝10時に始まって、終わるのはだいたい夕方6時、時には夜の8時を過ぎることもあったが、途中でやめたいと思ったことは一度もなかったし、「耐える」という感覚もなかった。術者としての自分の責任は自覚していたがそれをプレッシャーとは思わず、手術が終わったときの「ありがとうございました。」のひと言と手術用の手袋を外した瞬間の解放感をめざしていた。
 「キツイ、キタナイ、キケン、そしてキビシイ」ではあったがその分、仕事をやり遂げたときの達成感が格別だった。私としては手術だけでなく、救急外来で瀕死の患者さんを救命できたとき、自分の診断を裏付ける検査結果が返ってきたとき、苦労した患者さんが笑顔で退院していくときなど、そこに至る苦労が大きければ大きいほど満足感は大きかった。外科医だからこそこんなハッピーな気持ちを味わえるんだと心から思ったことが何度もある。
 「苦労してやってこそ喜びがある。楽なことは楽なりの喜びしかない」という幕内先生の言葉が最後に紹介され、「この尊い精神を継ごうと志す人が増えれば、どれほど安心なことか。」と「編集手帳」は閉じられた。外科医に限らず、どんな職業であれ、自分のやるべきことを知り、そこに到達する術を学び、正攻法で自分の道を歩むことが「喜び」を生み、それがまた明日からのエネルギーを自分に供給してくれると私は考えている。研修医そして医学生諸君、外科医はそんなに割の合わない職業じゃないよ。外科というダイナミックな仕事の波に自分の身をまかせるときっといいことたくさんあるぞ!
 
 春夏秋冬 <外科医も捨てたもんじゃない!> から