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<春夏秋冬>

発行日2006/10/10
   橋本 啓子
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犬の散歩
 
 2年ほど前、知り合いから、犬を譲ってくれるという話が舞い込んだ。子どもたちは小さいころから犬を飼いたがったが、犬や猫が嫌いな私が頑として拒否してきた。しかし子どもが大きくなって、親元を離れる時期が近づいてきており、子どもの希望を叶える最後の機会かもしれないと思い、飼うことに決めた。
 雪の降る日に、生後2ヶ月の秋田犬が、我が家にやってきた。太い足は靴下を履いたように白く、胸元が白く、そして体は真っ黒で、まるで小熊のようであった。雪の中ではしゃぐ姿は「イーヌは喜び庭駆け回り」の歌そのものであった。
 早速次の日から散歩を始めた。初めは子どもたちもまめに散歩をしていたものの、次第に回数が減り始め、犬嫌いの私も散歩に出かける羽目になった。このごろでは朝は夫、夕は私が散歩をすることが多い。
 苦手だった犬を飼うことによって、思わぬ恩恵がもたらされた。
 我が家は大学病院の近くにあるが、ここは緑豊かな場所で、散歩コースに事欠かない。手形山団地から、旧手形山スキー場にかけては人通りもほとんどなく恰好の散歩コースである。団地の天辺から見下ろす広面の風景、特に朝焼けは絶品である。遠く奥羽山脈から上る朝日に照らされて、霧がかかっていたりするとなお美しい。また、手形山大橋まで足を伸ばせば、はるか遠くに雄大な鳥海山を望むことができる。日本海に沈む夕日を眺めることもできる。
 大学病院の裏に回れば、田圃が広がり、その向こうには太平山が見える。田圃の畦道を巡る30分ほどの間、太平山はもちろん、空や雲の姿をじっくりと見ることができる。晴れているときよりも少し曇っている日の方が、雲の色が変化に富んで美しい。秋の夕暮れ時、空や雲が刻一刻と色や姿を変えていく様には、うっとりとする。
 今年の大雪の日も、田圃の畦道散歩は続いた。あまりの雪の多さに人や犬の足跡が途絶える日もあったが、カンジキの跡だけは毎日あった。送電線の管理をする人のものだろうか。そのカンジキの跡を辿りながら、でも雪にぬかりながら散歩をしていると晴れた日には汗をかくこともあった。そんな散歩を続けているうちに、左膝の痛みが消えていることに気づいた。しばらく前に水がたまり、水を抜いた後も膝全体が腫れていたのだが、いつのまにか腫れも痛みも消えていた。歩くこと、特に雪漕ぎが膝の血流を促して関節症を治したらしい。 
 ささやかな話であるが、犬の散歩のおかげで自分の住むところの景色や、山や空や雲の美しさに気づき、また健康を取り戻すことができた。嫌いだった犬に感謝である。
 
 春夏秋冬 <犬の散歩> から