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<ペンリレー>

発行日2003/08/10
阿部クリニック  阿部豊彦
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電子カルテ導入奮闘記
 
 昨今、電子カルテが普及しつつありますが、当院でも昨年7月の開院当初より電子カルテを導入いたしました。「電子カルテ」も多岐にわたり、各施設・先生ごとにその環境、事情は異なると思われます。私の場合、コンピューターに関して知識・技術とも貧弱であり、数々の苦労や失敗がありましたが、周囲の方々のご協力をいただき、何とか日常診療に使用できる状態になっております。このようなユーザーもいるということで、これから電子カルテの導入を考えておられる皆様のご参考になればと思い、初心者のこれまでの経緯をお書きいたします。

(1)電子カルテの導入決定
 電子カルテの導入を決めた要因は、厚生労働省のIT化指針もありましたが、導入によって得られるとメリット(後述)と、レセコン専用機を購入するよりは経済的かつ将来性があると考えたことなどでした。特に導入するのであれば患者数も少ない開院当初からとの勧めもあり、苦労を覚悟で決定しました。大学病院でオンライン・オーダリング・システムを経験していたことも精神的抵抗を少なくした一因だったかもしれません。
 電子カルテの選択にあたっては、既に使用されている先生方を訪問・見学させていただき、またインターネット上のホームページを検索して電子カルテユーザーの比較記事を参考にしました。結果的に、大手メーカーの製品に比して安価で、かつソフト、ハード的にも融通性のあるProfessional Doctor(プロドク)とDynamics(ダイナ)に絞られました。
いずれも医師が作成した電子カルテ&レセコン機能をもつソフトで、Windowsのネットワーク環境でやはりMicrosoftのデータベースソフトAccessをべ一スにして動作します。Accessに慣れることにより(その程度により)自分に適した仕様にカルテを改造(カスタマイズ)でき、いわゆる「世界で一つだけの自分の電子カルテ」になります。また、PC本体やネットワーク機器はユーザーが別途、自由に選択、購入し、急速なPC性能の進歩にあわせて安価にハードを更新、拡張ができます。両カルテとも5年で計算すると価格的にはほぼ同等で、例えばプロドクのソフトは85万円で買いきるシステムです。ダイナも高機能、かつ将来性豊かで魅力充分でしたが、ディスプレイ表示の印象と熊谷肇先生の強い推薦があリプロドクに決定しました。
 あるユーザーの「高級自動車で大きな道路のみを走行するか(大手メーカー)、雨風にはあたるかもしれないが、風を楽しみながら小さな道や野原も自転車で軽快に走りまわるか(プロドクなど)」という表現にも大いに魅力を感じました。

(2)電子カルテ導入の苦労
 PC(コンパック製)の構成としては端末を診察室2台と受付1台をLANで接続しました。ハード、ネットワーク的な設定は地元の業者さんにお願いし、セキュリティー対策としてfire-wall、無停電装置、バックアップ用のハードディスクの造設を行っています。また、熊谷先生にはソフトの導入、使用法をはじめとして、診療報酬の実際にいたるまで現在に至るまで大変お世話になっています。開院前2ヶ月前より電子カルテ使用のマニュアルを読み始め、PC単体での使用練習、約束検査・処方の登録、使用シミュレーションなどを経てついに開院を迎えました。しかし、初日より「楽しむ」程度以上の雨風が吹き付けることとなってしまいました。以下に、開院当初に自転車アベ号を襲った、突風・豪雨・悪路の一端を紹介します。
・開院前夜まで模擬カルテを作成し練習、初日当日朝には模擬データを削除して記念すべき一番目の患者さんを迎えたが、登録した約束検査なども削除されてしまった(注:カルテのファイル構造の理解不足)。また、SOAPの画面がうまく出なかった(注:看護記載用のボタンを押してしまった)。そのため、開院初日は、SOAPはメモ紙にとりあえず記載し、検査は1項目ずつ入力するという悲惨なことになった。
・事務員から「公費の方の入力方法がうまくいきません」。
・受付で次々に空の新患受付を作成してしまう。
今考えると、いずれも私の準備不足、理解不足が原因の単純なトラブルでした。開院当日は半日のみでしたが、昼にはカテコラミンが枯渇したかのような疲労感でした。SOSの緊急電話で昼、熊谷先生が駆けつけてくれ、数々のトラブルもなんとか解決しました。
 その後は、ハード面も含めて大きな風雨を蒙らなかったのは幸でした。そよ風程度の問題はデータのバックアップなどで切り抜けられています。

(3)電子カルテ導入のメリット、デメリット
 実際に電子カルテを使用し、私なりに感じた点を以下にあげます。
【メリット】①書字が苦手な私には便利②繁用する記述の登録、入力が簡単③繁用する検査、処置、処方、診療入力などが登録でき、Do入力も容易④処方、検査の入力時などその詳細や費用などを画面で患者さんに説明しながら行える⑤自動入力機能などにより紹介状の作成が容易⑥紙カルテが必要ない(各自の使用法により異なるが)ため省スペース⑦事務員が検査、処方内容などをレセコンに再入力する必要がないので、事務員の業務が軽減される⑧診療上の各種の検査や画像を登録し、患者さんヘディスプレイ上で提示できる⑨将来、診療情報や検査データの共有化、開示に移行可能⑩ちなみに外部委託の血液検査のデータはフロッピーディスクでも配達され、プロドクに一括入力される。

【デメリット】①何と言ってもキー入力に慣れが必要、入力のスピードが問題②PCにだけ向いていると患者さんに不評③眼が疲れる、視力が低下④患者さんもカルテ内容を画面で読めるので入力表現に気をつかう(患者さんにとってはメリットであるかも)
⑤ソフト、ハード両面でのトラブルに対する予防策、データやファイルのバックアップ、メンテナンスが必要⑥レ線、スケッチなどのイラスト入力の能率が悪い⑦各電子カルテ固有の短所

(4)電子カルテの今後に関して
 プロドクを使用して、私個人の専門や診療スタイルに合わせた使い勝手の改善や、カルテ一覧性の向上ができればと感じていました。Accessに習熟して根本的なカルテ改造できればよいのですが私個人的には能力的に限界があります。ところが、他の電子カルテと同様、ユーザーによるメイリング・リストが充実しており、全国のパワーユザーが実際的な質問や改造に関して指導してくれます。私も京都と仙台の先生から独自の改造バージョンをいただいており、現在は仙台バージョンを使用しています。さらに、プロドクをサポートする周辺ソフトが作成され無料で提供されていますが、私も最近インストールし、カルテの閲覧・検索・解析機能が著しく改善し、感激しています。
 今後、電子カルテがさらに普及するには、その使い勝手が向上し、導入によるメリットがもっと出てくることが必要と思われます。医療秘書による入力で効率の向上を図られている先生方もおられます。ネットワークによる電子カルテの情報共有を試みられている地域もあるようです。また、現在、日本医師会が推し進めているレセコン・システムORCAに密接に連動した使い勝手の良い電子カルテの登場も起爆剤になる可能性があるように思われます。電子カルテのより効率的な使用には、まだまだ自分自身のスキルを含めて電子カルテがさらに成熟していかなければいけないと感じています。
 最後に、電子カルテの導入にあたりお世話になった先生方に文面を借りて深く感謝申し上げます。
 次回は、やはり昨年、八橋に開業された俵谷博信先生にお願い致します。


 
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