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<ペンリレー>

発行日2003/07/10
介護老人保健施設 ニコニコ苑  相馬譲二
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老健医の一日
 
 病院を定年退職し第二の職場として施設に勤め始めた頃、「先生は週何日の勤務ですか」「勤務時間は自由でしょう」「ウイークデイにゴルフがやれて羨ましいですね」等と言われた事を思い出し、老健医についてご存知ない方が多いと感じましたので、その実状の一端をご紹介することにしました。
 勤務は週5日(月曜~金曜)。休みの日には午前9時半頃に電話を入れ、担当看護師の報告を受けます。

AM8:00 出勤
  9:00 診察室に行き、看護日誌・介護日誌に目を通し、担当看護師の報告を受けます。
  9:30 看護部長を帯同して回診(100人の入所者を三つのブロックに分けています)。回
       診しながら、日誌に記入されない細々とした情報を聞きます。
        回診の主眼は、コミュニケーションを図ることにおきます。高齢者は聴診器
       をあてないと診察してもらったと思いませんので、胸部聴診は必ずやります。
         以下、回診時の一噛旬です。
症例1
 「Aさん、今日の体調は如何ですか。」
 「身体はどこも悪いところはありません。た
  だ、朝食を食べさせてもらっていません。」
 「それは申し訳ないことをしました。今、
  お昼のご飯の準備をしていますので、もう
  少しご辛抱下さい。看護師さんには忘れな
  いようによく言っておきますので。」
  もちろんAさんは、毎食きちんと食べて
  います。
症例2
 「先生お久しぶり、お元気でした。」
 「Bさんもお元気そうですね。」
 「はい。先生のおかげで、この通り元気です。」
  次の部屋に移った頃に追いかけて来て、
  胸がムカムカして大変なの、お薬下さい。」
 「はい。わかりました。」
  彼女用の特効薬、レモン水を飲んでもら
  って症状は消腿します。
症例3
 「先生よく来てくれた。入ってお茶でも飲
  んで行って下さい。」
  自宅にいると思っている女性。
  その他、昼夜逆転で回診時は熟睡してい
  る人、収集癖のある人、弄便行為をやる人、
  常時俳御している人、うつ症状があり回診
  のたびに不定愁訴をくどくどと訴える人な
  ど、人生の縮図を見る思いがします。

 診察室に戻り、検査、薬の指示を出し処方筆を切り、午前中終了。

PM1:30 ケアカンファレンス(隔週)
       看護師・介護士・OT・PT・
       ST・ソーシャルワーカー・
       ケアマネージャーが一堂に集
       まり、意見を出し合って問題
       点を浮き彫りにし、ケアプラ
       ン作成につなげていきます。
  3:30 ナースステーションに顔を出
       して、午後からの変化、現状
       を確認します。
  5:00 帰宅


<老健医のつぶやき>

・延命介護
 全くの寝たきりとなり、自発語もなく食事を含めて全介助の方。我々のやっている介護は意味があることなのか。ご家族は感謝しているが本人は?…複雑な心境になります。

・理念と現実のギャップ
 施設は在宅復帰を理念としていますが、社会的要因の介護力低下が問題で、現実はなかなかスムーズに行きません。ADLが改善しても在宅復帰は難しく、心ならずも長期入所の傾向にあり、退所の方はほとんど別の介護老人福祉施設に移っていきます。ご自宅に戻られる方は数える程しかおりません。

・精神的負担
 体力と免疫力の低下している高齢者を100人も抱えていますと、何時、脳卒中の再発作・転倒・骨折・誤嚥・窒息・肺炎を起こすかも知れず、毎日が綱渡りで一日として平穏無事な日はありません。幸い私は病院併設の施設にいますので、夜間・日曜・祭日は病院の日当直の先生達が応援してくれるため、とても助かります。独立型の施設にお勤めの先生方のご苦労は並大抵ではないと思います。

・一日一日を大切に
 例年、冬期間は風邪とインフルエンザの感染予防、夏期は食中毒と脱水対策に神経を使います。かくして一年はあっという間に過ぎ去ります。裕次郎の歌の文句ではありませんが「我が人生に悔いなし」と、一日一日を大切に仕事に励んで行きたいものだと考えています。

 次回は大学医局以来の親友、小泉純一郎先生にバトンを渡したいと思います。
 
 ペンリレー <老健医の一日> から