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<ペンリレー>

発行日2002/12/10
中通総合病院  木暮輝明
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まじめに息抜き
 
 時には大いに息抜きをし、日頃のストレスを発散させて英気を養いたいものである。その方法にも色々あるが、主として私は音楽や映画の鑑賞、あるいは読書などをすることが多かった。しかし最近は、決して褒められた息抜きとは言えないがパチスロという遊戯(ギャンブル)を行うことも多い。最初は何となく抵抗があったが、友人に誘われてほんの暇つぶしにやってみたところ、これがなかなか面白い。コイン3枚(60円)を入れる。レバーを叩く。3本のリールが回る。ボタンを押して順次リールを止めていく。最後に7が三つ揃えば大当たりとなるのだが・・・。
 思い起こせば30年前、高校3年の時に悪友に連れられて初めて足を踏み入れたパチンコ店。そこはまさに哀しいおじさんたちの吹き溜まりと呼ぶに相応しかった。店内にはどことなく暗い陰性の空気が漂い、咥えタバコで淡々と玉を弾く寂しいおじさんたちの背中があった。高校生のギャンブル禁止はともかく、夢も希望もある18歳の健児がいるべき場所ではないことは直感できた。ここは女子供が侵してはならない自分達の城である、とおじさんたちの背中が言っていた。
 ところが今ではどうだ。店内はお嬢さんやお姉さんで大盛況。おばさんは言うに及ばずお婆さんまでいる。まさに女性客のるつぼである。時には短いスカートのお姉さんが台に向かってきわどい位に大胆に足を組み、携帯電話を片手に「今ね一、パチ屋。こっちに来ない?」などと会話中。そこには既に哀しいおじさんたちの出番など微塵もない。・・・まことに良い時代になりました。いや、そんなことを言いたいのではない。これこそ企業努力の賜物であると言いたいのです。この不景気の時代にあって、レジャービジネスの世界で確固たる基盤を築き上げたパチンコ業界には、生き残りに賭ける不屈の精神すら感じられる。充実した駐車場を始めとし、冷暖房、換気の行き届いた広い店内、清潔感のあるトイレ、教育の端が窺える店員の接客態度などを見ただけでも、そこには親方日の丸的な甘さはないことだけはわかる。一方、巷では日本経済の破綻防止と称し、経営不振に陥った特定の銀行や企業に多額の税金が注入されている。そして、税金の注入治療を受ける側の経営陣の言い訳を聞くにつけ、彼らの甘さが伝わってきて腹が立つのは私だけではないだろう。顧客相手のビジネスという点では同じであっても、パチンコ業界ではバブル崩壊後も年間20兆円以上の売上げを維持しているのである。そんな訳で多少感情的ではあるが、銀行に注入される私の税金分はパチンコ玉にして流してやった方がよほど気分爽快というものだ。・・・愚痴は止めよう。今日は息抜きに来たのだから。
 さて、ゲームに戻ろう。リールは既に回っている。おもむろにボタンを押して左のリールを止めてみる。止まった数字は7。少し緊張して中央のリールも止める。すると、かろやかなテンパイ音を残し、ここにも7が止まる。してやったり。この機種はこの時点で大当たりが確定するはずである。いや、もしかすると今回は例外かもしれない。一瞬弱気になりかけた自分を打ち消すように、最後のボタンを押す指にも力が入る。そして最後のリールが止まると・・・目の前には美しく7が三つ揃っているではないか。つい見惚れてしまう。この瞬間、今月のストレスよさようならである。決して大袈裟ではない。なぜなら、この機種はこの瞬間から一気に五千枚のコイン(10万円相当)を吐き出すからである。45分間かけて約束通りに5千枚を吐き出した後も台には勢いが感じられる。ここは押し時、もう少し追ってみよう。その後もさらに2千枚を吐き出したが、そろそろ元気がなくなってきている。ここが見切り時というものだろう。一獲千金を夢見てこれ以上深追いすると後悔するのは見えている。よって本日はこれにて終了。帰りにプレイステーション2をお土産にしてお父さんの株を少し上げておくことにする。
 ある作家によれば「ギャンブルには、時に人間に至福の時をもたらし、時に人間を翻弄し、破壊へ向かわせる魔力がある」とのこと。このことはギャンブルに限らず人生全般にも当てはまりそうである。どうせ負けるだろうと思って少し引いてギャンブルに対持していれば大やけどをすることはない。ただし、これでは面白味みに欠ける。私はまじめに息抜きをしたいため、少しスタンスが違う。雑誌に目を通して機種(台)の特徴を理解したり、行こうとする店の情報くらいは調べるようにしている。しかし私にとってパチスロはあくまで息抜きであり、勝つことにこだわり過ぎると逆にストレスの素にもなる。そして、何よりも退き際が肝心。これに尽きる。当初、高い授業料を払って得た教訓である。その甲斐あってか最近では見切り時の達人とまではいかないが、少なくとも月単位では負けることは殆どない。
 人間、至福の連続が幸せであるとは限らない。ギャンブルでも人生でも多少翻弄されているうちは、まだ楽しんでいる部類に入るかもしれない。かつて若い頃、交際相手に振り回されて悩んだことが却って楽しく思い出されるように。
 次回は心優しき職場の先輩、李力行先生にお願いします。
 
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