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<ペンリレー>

発行日2002/10/10
石田内科医院  石田明子
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カーナビから
 
 今年もお盆休みに北海道を旅行したが、移動のため借りたレンタカーには、カーナビが装備されていた。機器の操作など苦手で今まで使ったことがなかった私だが、皆の「とても便利」という話を思い出し、意を決して挑戦してみることにした。操作法を簡単に習いいざ出発。ところが、まず器機からの音声がとても耳障り。しかも、10分も走った頃だったか、自分で前もって地図で見当をつけておいた道を曲がろうとすると、直進せよの指示。「何ですって?」車を止めて地図を調べてみると、指示しているのは、幹線道路らしいがかえって遠回り。頭にきて、カーナビのスイッチを切ってしまった。そこで、私は頭を冷やしてよく考えてみた。そして、カーナビは私には全く無用の長物であるという結論に達した。私は、旅行ではいつも、未知との遭遇の部分を楽しみにしている。地図をながめ、標識に目を凝らし、所要時間を計算しながらスピードを上げて目的地へ。迷ったら誰かに尋ねてみる。それは土地の人との会話の機会。便利なカ一ナビを使わないことで得るものは沢山ある。
 そこで、一般に「便利である」といわれているものについて考えてみた。自動販売機。これによって行楽地に水筒は不要となったが、缶やボトルのゴミの山が残った。最近、漸く酒、タバコが規制されるようになったが、お金を入れれば誰にでも商品を提供する、このことが、子供達、誘惑に弱い問題を抱えた大人達にとって、好ましくない環境をつくっていたことは確かであろう。しかも、街並、自然の景観は損なわれるように感じる。
 次にインターネット。今や事務処理上、不可欠といえるが、器機の操作を一つ誤ることで大きな失敗が起こったり、倫理観の欠如で、個人のプライバシーが大きく損なわれる可能性がある。子供の使用には疑問が残る。ボタン操作で簡単に得られる知識より、従来の試行錯誤に富む調べ物の方が、読書力、文章力、思考力をつけるうえで遥かに意味がありそうだ。
 携帯電話はどうか。この商品の登場により、いつでもどこでも通話可能となった反面、いつでも仕事時間、どこでも仕事場といった精神的緊張を生んでいるかもしれない。子供達の生活観も変わった。親の目を恐れずに通話できる。気弱な子は、友人にいやと言えず、つきあわされるかもしれない。親は電話をめぐっての躾をする機会を失い、子供の行動を把握しにくくなった。
 確かに便利なものは歓迎される。大人にも、子供にも。こうした便利なものが当たり前の生活の中に育つ子供達には、欲しい物を我慢して待つこと、規則正しい生活、他者への配慮、思考することなどは、難しいかもしれない。今回、カーナビの件を機に、便利なものの持つ意味を考えているうちに、大人のみならず、子供への悪しき影響に思い至った。この他コンピューターゲーム、子供の時間帯なのに配慮を欠く一部のテレビ番組など。私達大人は、どうして子供達にとって、もっと本当の意味で善い環境を整えてあげることができなかったのだろう。今の子供達は大切な消費者として、大人の利潤追求の標的にされているように思えてならない。そういえば、長男の高校入学の日、校門を出ると何人もの若い女性が、携帯電話のチラシをすごい勢いで配っていた。文部科学省は、①自分を育てる②共に生きる③生命を愛おしむ④社会をつくる。といった真当な目標を揚げている。その達成のためには、家庭はもちろん社会全体で子供達に善い環境を整えなくてはと思うのだが。そのためには、便利さへの志向、利潤追求など従来の方向を再考し、私達大人自身の価値観や倫理観などを再点検する作業をさけては通れないと思う。

 次は大学の同期生、木暮輝明先生にお願いします。
 
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