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<ペンリレー>

発行日2002/08/10
白根病院  鈴木裕之
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患者の権利・医師の権利
 
 最近「患者の権利を尊重せよ」という声がいたるところで聞かれる。私ももっともなことだと思うし、いままで患者の権利がないがしろにされてきたことをすべて否定できない以上、日々の診療の中で、より患者に心地よさを与えるべく行動しているつもりだ。
 先日、とある講演会で、患者として入院したジャーナリストの講演を聴いた。点滴を何回も失敗された一患者への説明がなってない-もっとサービス業に徹せよ-云々と医療サイド、特に医師のいい加減さを強調していた。「もう二度とあの病院へは行きたくない。」とも言っていた。多少の誇張はあったにせよ患者に不快な思いをさせたわけであるから、この場合は明らかに医師の分が悪い。改善すべきところも多々あった。
 しかし、「ちょっと待ってよ」と私は言いたい。一回の入院で現在の医療はこんなんですと普遍的に話すのは勘弁願いたい。たった一個のサンプル数で全体を推し量るのは誤りであることは誰でも承知のはずだ。10回入院してから、そういう発言をしてくれとは言わないが、公の場での発言であることの認識とその影響に対する責任を考えてもらいたい。昨今の医療事故には目に余るものがあり、患者やその家族から聞こえてくる、粗雑な医療サイドの言動も多々ある。同業者としての責任を禁じ得ないし、自分にも思い当たるものがあり反省させられている。しかし、それを報じるマスコミの姿勢には異議を唱えたい。自分のミスを隠蔽するためのカルテ改ざんは言語道断だが、医療事故が起こる背景や個々の原因にも視線を注いでもらいたい。医療に1OO%安全はなく、常に治療にはリスクが伴い、個々の患者の多様性にも注意がはらわれている。医療事故をひとまとめにして、医療システムと医療関係者(特に医師)のすべてを非難すれば、医療そのものへの信頼感が失われかねない。
 さて、胃潰瘍と診断されても、酒・タバコをひかえず、内服も短期間でやめて、何度も再発を繰り返す-アルコール性肝障害と診断されても、強力ネオミノファーゲンCを注射しているからと酒量を減らさない-高血圧と診断されても、「副作用が恐い」「一生飲み続けたくない」と降圧剤を飲まない-かぜと診断されても、注射・点滴をしないと納得しない-入院も退院も自分で決めて来院する-身内の社会的入院を強要する。医師の説明不足がこういった患者を生む最大の原因なのは承知の上だが、それを差し引いても笑顔で応対するのは正直つらいものがある。私は看護婦から「まあ、先生、そう荒げないで。」といわれることがあり、そのたびに反省しているが、やはり医者も人の子、感情的に走ってしまうこともある。
 前述のジャーナリストは自分でその病院を選んだわけで(たとえ他院から紹介されたとしても、断ることはできる)、そこには患者の自己責任も生まれると考える。一方で医師には患者を選ぶ権利はない。来院した患者はすべて公平に対応することが医師法で義務づけられている。この法に反旗を翻すつもりは毛頭ないが、患者が権利を行使する際のルールあるいはマナーといったことがもう少し強調されるべきだと考えている。患者と医師は信頼関係で結びつく対等の関係であるというのが私の持論である。初診患者の最初の1分間でいかに患者の信頼感を得るかに力を注いでいることもわかってもらいたいものである。
 次回のバトンは石田内科医院の石田明子先生に渡した。秋田大学医学部昭和57年卒が4人連続でバトンをつないだところである。
 
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