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<ペンリレー>

発行日2022/07/10
くらみつ内科クリニック  倉光 智之
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患者総括を書き始めました
 
 総合病院に勤務している時は、退院した患者さんの退院総括をなかなか書けずにためこんでしまい常に大変だった記憶があります。入退院の回転は速いし、入院患者は多いし、時間的精神的余裕がなく、総括を書くことは最低限の義務と解っていながら、どうしてもできませんでした。電子カルテではなく紙カルテの時代であったため、たまった退院総括未記載の入院カルテは段ボール箱2個分くらいになることもありました。退院総括を書きおわる前に患者さんが救急 外来を受診した際は救急担当医が病歴を把握できず、患者さんと救急担当医に本当に申し訳なく思いました。
 開業したときに、退院総括記載の重圧から解放されました。開業後は通院患者さんの病歴はすべて把握できている自信があり、外来患者の総括作成という発想は浮かびませんでした。
 総合病院勤務時には、既に退職していた元院長が時々外来に来られ、100枚以上はある分厚い外来紙カルテを数冊取り寄せ、患者総括を作成し新しい薄いカルテにしてくださいました。一人まとめるのに1時間以上はかかっていたと思います。知らない通院歴の長い患者さんの総括を作成していただき非常にありがたかった記憶があります。
 総合病院勤務時から開業してからも、多くの患者さんを紹介してくださった先生は、手書きの紹介状にいつも丁寧な患者総括を記載されていました。あるときに、どうしてあんなに総括を作成できるのかを先生に訊ねたとき、医師会の仕事をするようになってから、わざわざ来院してくれた患者さんを診察できずに紹介することが多くなり、そんな時に患者さんに迷惑をかけないように日頃から総括を記載するようにしていると話をされておりました。畏敬の念とともにとても真似できないなと感じました。
 そうこうしながら開業して10年を過ぎてきたら、通院の長い患者さんの経過をすべて理解している自信がなくなってきました。年を取り記憶力の低下もそれに拍車をかけました。実際、カルテを見返し、そんなこともあったなと思い出すことも多くなりました。電子カルテは記載が一律で文字にインパクトがなく、病歴が視覚から響いてきません。受診回数が多くなればなるほど病歴がつかみにくくなります。かかりつけ患者さんが総合病院を緊急受診し、受診した病院から患者さんの情報提供書依頼のFAXが届くことがあります。かかりつけ患者さんであるにもかかわらず、長いカルテを読み返しながら病歴記載に苦労することもあります。紹介状は極力丁寧に記載する様に心がけていましたが、患者総括を作成するという考えには至りませんでした。
 そんなとき、近くで開業されている先生からの紹介状に、紹介状とは別に非常に詳細に記載された総括が添付されてきました。その先生は私のクリニックで使用している電子カルテと同じものを使用していました。すぐに追随することにしました。
 紹介状は、相手の医療機関に対する依頼書であるため、貴院・貴科などの用語を用いた手紙文となってしまい、依頼先の医療機関が変わると、書き直しが必要な部分が非常に多くあります。総括は、どこの医療機関にもそのまま印刷して提出できる文章になります。しかも電子カルテでは、病歴の追加・修正も極めて容易です。また、患者さんが突然受診した場合に総括を読むことにより患者さんの病歴を再認識できます。
 外来患者総括を作成することはいいことずくめですが、最大の問題は作成に非常に時間がかかることです。コロナ禍で学会・講演会が無くなり空いた時間を総括書きに費やすようにしました。若いころはキーボードの打ち間違いは気になるほど多くありませんでしたが、年を取ってくると老眼に加え、頭ではきちんと打っているつもりでも指先の動きが追い付かず、非常に誤入力が多くなりました。さらに最近は、いわゆるバネ指なのか、右手中指を曲げている状態から伸ばした時にフックが外れるように指が弾発するようになり、打ち込みの足手まといになっています。
 患者総括は、紹介状の記載が必要となった方、転勤族の方、病歴の複雑な方、通院期間の長い方を優先して作成しています。特に転勤族の方は、数年で各地を転々としており、当地で病歴のベースを作ってあげると先々楽だろうと考え、紹介時に過去の病歴をまとめてわかりやすい総括を紹介状に添付するように心がけています。
 総括を作成し始めてから気づくこともありました。カルテをさかのぼって確認しても、既往歴や生活歴が記載されていないことが多々ありました。そんなとき、患者さんが持参する検診結果や人間ドックの結果にはかなり詳細に既往歴や生活歴が記載されていました。
 総括書きを始めたといっても、通院している患者さんの数%しか完成していません。しかもコンスタントにある程度の記載数を維持していないと、完成率はどんどん下がってきます。
 総括書きは強制される仕事ではないため、モチベーションが落ちるとすぐ頓挫してしまいます。総括書きを始めるにあたり、多大な影響を与えてくださった諸先輩の先生達の足下にはまだまだ及びませんが、何とかこれからも総括書きを続けていきたいと思っております。
 次は、いつも優しい、こしむら糖尿病内科クリニックの越村淳先生にバトンを受け取っていただきました。
 
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