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<ペンリレー>

発行日2020/08/10
稲庭クリニック  菅原 純哉
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中途半端の魅力
 
  毎日の診療に明け暮れていると、一切その事を意識せずにすむ時間がほしくなります。今の私にとって、それは楽器に触れている時のようです。7年ほど前から、秋田市管弦楽団の団員として参加をさせていただいています。パートは「ヴィオラ」です。オーケストラの演奏や室内楽等をあまり聴かれない方にとっては馴染みのない楽器かもしれません。ヴィオラは弦楽器の一種、ざっくり言うと「ヴァイオリンみたいな楽器」です。見た目はヴァイオリンとほぼ同じ、ただ音の高さが5度下から始まっている(ヴァイオリンの一番低い音は“ソ”ですが、ヴィオラはその下の“ド”)のです。楽器の大きさ(全長)はヴァイオリンが約60cmに対してヴィオラは約70cm。楽器の特性として、低い音がしっかり鳴るためにはそれにあわせて胴体が大きくなければならないのですが、ヴァイオリンのボディサイズ(ひょうたん型の箱の部分の長さ)は約35cmなので、理論上はヴィオラは53cmの長さが必要になってしまいます。しかしその大きさを確保すると、手が届かなくなってしまい演奏はできません。だから、「ちょっとだけ大きい」のです。実際の長さは38.5cmくらいから43.5cmくらいまで様々。そう、ヴィオラには標準の大きさが存在しないのです。長さだけでなく厚みも違っていたりします。時にはシルエットまで違う歪んだ形の胴体を持つ楽器もあります。ヴィオラは永遠に未完成、中途半端な楽器なのです。
 出る音は中音域ということもあり、アンサンブルでは“内声”を受け持ち、あまりメロディを奏でることがありません。そんな目立たない楽器を受け持っていて、弾いてもつまらないのでは?と思われる事も多い様です。しかしながらこれが実に面白いんです。ときにヴァイオリンの歌うフレーズに寄り添ってみたり、ひたすらリズムを刻んで曲に推進力を与えたり、メロディの陰で音楽の表情を作ったり・・・。オーケストラの中では、こちらが上手に弾いてるのに気づかれないことも多い(^_^;) のですが、立ち回り方次第でその音楽全体がいい案配になったりするので、思ったように事が運んで密かにほくそ笑んだりしているのです。その中で、たま?にやってくるメロディに全精力をつぎ込む!(やはり、ときには目立ちたいのです)いろんな楽しみ方が出来る、それがヴィオラパートなんです。なんだか暗いなぁ・・・。
  こういった役割が主のためか、元々ヴィオラにはソロとしての作品は少なく、ヴァイオリンやチェロ、クラリネット等、他の楽器のために書かれた曲の編曲版が多いのも特徴です。独奏楽器として認められ、多くの演奏家が輩出されるようになったのは比較的最近で、必然的にヴィオラのための作品は近現代のものが多くなり、アマチュアが弾くにはちょっと辛いな、と感じることもあります。アンサンブルはともかく、一人で弾くにはやっぱりつまらないでしょ? そう言われたりします。
 しかし、この楽器の中途半端な特徴のおかげで、ヴィオラはややくぐもった、渋く、柔らかい音色がするのです。耳に響く音が優しく、弾いていてとても心地よいのです。一方楽器の大きさや形状は様々ですから、個々の楽器によっても、また演奏者によっても音色は相当異なります。そしてこのふれ幅の広さは、聴いていても飽きることがありません。独奏楽器としては発展途上なのかもしれません、新しい演奏家が出る度に「こんな表現方法があるのか」と驚かされる事も多いのです。 
  中途半端の魅力に溢れるこの楽器を紹介させて頂きました。しかし当たり前のことですが、いざ演奏するとなると中々うまく鳴ってくれないのです。音程も思いの外とりにくく、弓の扱いもヴァイオリンとはかなり違います。存在感の薄い、演奏するにもちょっと不自由な(?)この楽器、それでも好んで弾いているヴィオラ弾きは、やっぱり変わり者かもしれません。「ヴィオラジョーク」という自虐ネタが昔からはやっているのをご存じの方もいらっしゃるかと思います。最後にいくつかご紹介します。(ちなみに、大抵のヴィオラ弾きはこのネタが大好きなんです)
「ヴァイオリンよりヴィオラが優れている点は?」
       “ヴィオラの方が長く燃える”
「最新の録音でヴィオラの音が聞こえないのはなぜ?」
       “ノイズを消す技術が発達したから”
「ヴァイオリンを盗まれない方法は?」
       “ヴィオラケースに入れておくこと”

 少しでも興味を持って下さった方、是非ヴィオラの音をお愉しみいただければありがたいです。
 次回は、秋田緑ヶ丘病院の草薙宏明先生にお願いしました。
 
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