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<ペンリレー>

発行日2020/08/10
秋田県立循環器・脳脊髄センター  高橋 徹
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33年ぶりの秋田生活
 
  2020年はオリンピックで大騒ぎになるはずだったのに、新型コロナウイルス(COVID-19)で大騒ぎになっていますが、今回はそれには触れません。たまには別の話題もよろしいかと。
 昨年1月の異動で秋田高校を卒業して以来33年ぶりに秋田に帰って来ました。今の秋田は駅前から広小路の変貌、駅東に広がった市街地、駅の東西を結ぶ地下道、手形山(水道山)を通る大きな道路など私の知っている秋田とは違う街です。中学・高校生の頃よく行った書店、デパート・ショッピングセンターは無くなってしまいました。ほぼ知らない街での新生活でした。1年半が過ぎたところでの秋田の生活を振り返ってみたいと思います。
  この冬と同じように昨年の冬も雪が少なかったですが、一日中どんよりと曇った日が多く「やっぱり秋田の冬だ」と感じました。雪が積もれば白いので曇りの日でも明るく感じられますが、昨年の冬は雨の日が多く地面が黒く濡れているので日中でも薄暗い日々でした。子供の頃は雪が降るのを楽しめましたが、何日も陽の光を見ないでいることと、異動してきたばかりという緊張感と重なって少々憂鬱でありました。今年の冬の様に日射しがあると気分も明るくなります。前任地の盛岡の気温は秋田よりも4-5℃低いのですが、冬でも太陽がでるので氷点下でも日なたの雪は溶けます。その代わり日陰の凍結は春になるまで溶けません。一方、秋田は日射しがないので雪がなかなか消えません。雪が溶けては凍るので水たまりができて歩くのが大変です。また風が強いので傘を差すのも大変です。暮らし始めてすぐに「秋田にはフード付きのオーバーや帽子をかぶっている人が多いなあ。雨やみぞれが降っても傘を差さない人が多いなあ」と思いましたが、その理由を実感し私も同じようになりました。秋田では近くへ行くのにも自動車を使用することが多い理由がよくわかります。自動車の運転については面白い地域性を見つけたのですが、本稿では触れません。
 暗い冬が過ぎ、好天も増え光の春が来ました。黒い地面からポツポツと水仙が咲き始め、梅、桜と続きます。市内あちらこちらで桜を楽しみ「春爛漫」を満喫しました。満開の桜は本当に街を華やかにします。千秋公園も良いですが(通勤途中に園内を一回りして朝の静かな桜を満喫し、帰りも出店で賑わっている夜桜を楽しみました。)、太平川や新屋の桜も素晴らしいです。この美しい桜花もいずれ桜吹雪とともに散ってしまいます。しかしその頃には木蓮が大きな白い花を付け、木々に若葉が芽吹き始めさらに明るい季節になります。明るい萌葱色の新緑の季節も短い期間だけですがだからこそ美しい。続いてツツジ、サツキ(秋田市の花なのですね。サツキとツツジの違いは最近知りました。)が市内をカラフルに彩り、郊外の山の斜面に大きな藤の木が紫の花を付けています。桜にはヒヨドリが、藤の花にはなぜあんなに蜂が集まるのでしょうか。子供の頃はのんびりした春の雰囲気があまり好きでは無かったのですが、去年は春の明るさにすっかり魅せられました。
  春も過ぎ、気がつくと千秋公園の堀は蓮の葉で覆われます。背の高い蓮の花と背の低い睡蓮があるのも今回初めて知りました。木々も鬱蒼と緑が深まり、公園からの眺めは悪くなりますが、木陰のおかげで、散歩にはありがたいです。今年は残念ながら中止になりましたが、竿燈の練習のお囃子を聴きながら、涼しい風に吹かれ夕暮れの街を帰宅するのは本当に気持ちが良くつい遠回りしてしまいました。
 木々の花々だけでは無く、草生津川の川沿いなど市内あちらこちらでさまざまな花々が秋の紅葉まで途切れずに目を楽しませてくれます。手入れが行き届いた花々が咲き誇る秋田の豊かさが実感されます。
 秋の紅葉も高低差の少ない平野部なのに風の影響なのか場所場所で時期が少しずつ異なり長く楽しむ事ができる様な気がします。前任地である内陸の盛岡はある日突然秋になり、突然冬になるのがはっきりと判りました。秋田のゆっくりと深まる秋を感じているうちに、日暮れが早くなり、曇天が増えるようになり、また冬が来ました。誰もいない冬の夜の広小路のライトアップがきれいですが(お堀越しにみる教会や、誰もいない夜のエリアなかいちの広場は映画のワンシーンのようです)、最盛期ほどではないのでしょうけれど川反に咲き誇るネオンの華に引き寄せられるのも秋田の豊かさと魅力を感じるひとときです。おかげで二度目の冬はかなり楽しく過ごすことができました。
  話題を変え視線をもっと上に向けてみます。私にとって「秋田の空」は特別です。海岸に行き夕日を見るのも良いのですが(市内茨島からみる新屋の風力発電の巨大な風車に重なる大きな夕日はなんとも言いがたい物があります)、町中にいても空を見上げると空がとても広いです。東側には太平山、南西には大森山、遠くには男鹿半島や鳥海山が見えますが、海沿いの平野のためでしょうか市内中心部にはビルが並んでいるにもかかわらず、秋田は空が広く感じます。比較の対象の盛岡や実家のある大館が盆地のためかもしれませんが。
  広々とした空は高く感じます。好天の日の秋田の空は多彩な雲が風に乗りどんどん流れてゆきます。私は雲の種類についてあまり詳しくないのですが、眺める方向により雲の形は全く違っています。北の方に平たい雲がびっしりとあるかと思えば、東側野山沿いには盛り上がった雲が夕日に照らされて暗くなりつつある紫がかった空に浮かび、一方南側は雲無く薄オレンジ色に晴れ遠くに鳥海山を望むといったパノラマが楽しめます。高村光太郎は「東京には空がないという」と詩いましたが、秋田には広い空があふれています。もっとも、西の空に黒雲が湧いて来たときには急いで傘の準備をしないとあっという間に雨に降られますが。この広い空がどんよりとした暗い雲に覆われる冬ときたら...。
  当センターは丘の上にあり目の前の千秋公園を眺め、北東南の三方向は遠くまで広々とした眺望が得られます。朝夕の回診時に窓からの眺めは、千秋公園の四季の変化のほか、北には手形山から天徳寺と学校群、東に秋田駅を越えて太平山、南は駅から明田富士、金照寺山、一つ森と市内のビル群と変化に富んで飽きることがありません。
 この原稿は7月上旬に書いていますが、千秋公園のお堀の蓮が咲き始めました。あちらこちらで紫陽花も咲いています。紫陽花も青や赤だけで無く、花の形も様々でいろいろな種類が増えたように思えます。雨の日にはより鮮やかな色合いをみせるので雨天の通勤も苦になりません。
  永年秋田で暮らしておられる諸先生には「何を今更」とお思いでしょうが、これが33年ぶりの秋田生活の印象です。
 山の向こうに何がある?海の向こうに何がある?といった雰囲気の美しい街秋田に暮らし、少しでも皆様の役に立てればと精進する所存です。温かいご指導、ご鞭撻、ご支援のほどよろしくお願いします。
  次回は私の上司にあたる堀口聡副院長にお願いします。
 
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