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<ペンリレー>

発行日2020/05/10
秋田赤十字病院  佐藤 隆太
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若者達との釣り
 
  ペンリレーには2年前の平成30年に初めて投稿いたしまして、今回は早々と2回目の投稿となります。今回は「若者達との釣り」の話題とします。
  釣りを趣味にする人というのは、若い頃から、極端には幼少期から早々と始める人が多いのですが、私は30代半ばから、海原にて船釣りを始めました。当時は「忙しい医療のことと、喧しい家族のことは一時忘れて、ゆったり過ごそう。」という目的のレジャー的な出船でしたが、喧しい家族には慣れてきた齢40代のおっさんの私は、釣り歴も10年となり、釣る対象の魚の生態を考えながら、基本には忠実に、そして他の人とは少し違いを付けて仕掛けを準備して、釣りにのぞんでおります。
  ここ近年で嬉しいことがあったのですが、自分とは生きてきた時代が違う20代の若手と釣りに出かけることが何回かできているということです。師匠(妻の父)から習ってきている(今も習っています。初心を忘れない。)自分が、若者をゲストに迎え、一緒に海原に出るようになりました。ただし、その若者達は、リールの種類や使い方(ベイトリール、スピニングリール、クラッチ、サミング、バックラッシュ)、糸(PE、リーダー)、ロッドの性状(先調子、胴調子、のせ調子、掛け調子、重りのレンジ等)、釣り針の種類など、専門用語とその基本的な使い方は知っており、医療の世界でいったらまさに医学生や初期研修医や後期研修医といった感じの若者達であり、実際にその本人達も医師や医学生です。
  鯛釣りは、若者達に鯛の性質をお伝えすることから始まりました。1) 鯛は水深30メートルくらいから100メートルくらいに生息し、夏には大型の鯛はやや深めのところにいる。2) 警戒心が強く、周囲に違和感を察知したら退避し、ベイト(「日常食事する餌」のこと)に違和感を察知したらすぐに見切ったりするという知能の高さを持っている。3) ベイトは、蟹、蝦などの甲殻類、ゴカイ、小魚など様々であり、その日の鯛のご機嫌や海中の状況により食べるベイトが変わる。4) 鯛の狩猟と捕食の仕方については、堅いヘッドと泳ぐパワーでベイトに体当たりしたり噛みついたりして、その後、鋭い歯と強い咀嚼でガブガブとベイトをかみ砕いて食事をする。1)と2)にて、鯛ラバ(鯛の仕掛け、ルアーのことです。)を静かに自然に動かすため、素早く海底まで鯛ラバを落とし、素早くそしてしなやかにリールのハンドルを動かして釣り糸を15~30回ほど巻き取り、またすぐに海底に鯛ラバを落とすのを繰り返す。3)にて、鯛がその日に食べたいと思っているベイト、若しくは好んで食べるベイトを選択できるように、たくさんの種類の鯛ラバを準備し、4) 竿に当たりを感じても鯛がまだ噛んでいるだけであるため、針に引っかかるまで我慢して待って、引っ張り込まれたと感じたら、竿を振り上げて釣り針を鯛の口に刺して巻き上げる、という釣りの方法を伝えました。
  2019年8月、晴天なれど波高し、最高気温30度近く、紫外線とても強し。男鹿の北浦沖の海原に私の師匠とおっさんの私と2人の若者達がいました。釣り場は水深70メートルの深場です。船のエンジンが切られて静かになり、鯛釣りが始まりました。師匠は餌釣りのプロ(個人的にはレジェンドと言ってます)にて餌釣りに徹し、私と若者達は鯛ラバでの釣りを開始しました。鯛ラバのヘッドと仕掛けの色(オレンジ、チャーコイルグリーン、レッド)とヘッドの重さ(100-120g程度)をそれぞれの好みで決め、鯛ラバを海底まで落とし込み、着底したらすぐに15~30回くらいリールを巻いて、また鯛ラバを落とし込む、この単純な繰り返し。しばらくすると、「あー!きたー!」という若々しい雄叫びがあがり、ものすごく竿がしなっておりました。うまく鯛を掛けたようです。「糸のテンションを保ちながら、竿とリールの性能を信じて巻き続けて、絶対に強く振り上げないで。」とおっさんの私が伝えながら、そこから長い時間のファイトが開始です。両足で踏ん張り、左腕で竿をしなやかに操作して右手でじっくりリールを巻き、ついに海面に浮かび上がってきたのは、55~60センチメートルのレベルの淡いピンク色の美しい真鯛でした。やったね!もう一人の若者は、出船後に高波にてあっけなく船酔いとなり、移動中は寝て、鯛ラバ釣りの際は、基本は立って釣るはずが船酔いにて座りながら静かに釣りを続け、それなのになぜか鯛が掛かり、そのときだけすっと立ち上がって鯛と勝負し、見事に釣り上げ、そしてまた寝ました。その若者により「寝釣り」という釣り方が確立されました。
  この日は、4人で結構釣れまして、50~60センチメートル級の真鯛は5匹、40~50センチメートル級の真鯛を10~15匹、ほかに良型の甘鯛やアイナメ、他にホウボウなど、すべて高級魚を釣り上げました。なお、釣りはゲストを迎えると、ホストは釣れないというジンクスがあり、ホストであった私は、その日は、釣れた量としては一番少なかったです。しかし、満足できる量であり、そして、高波を耐えながらみんなで何とか成果を上げたため、この日はとてもありがたい日となりました。
  若者達は、釣り自体はかなりやりこんでおり、もともと基本的な釣りの技術がありました。しかし、船釣りでの鯛ラバによる鯛釣りは初めてであり、大きなサイズの鯛との勝負にとても楽しんでくれました。私が用意した仕掛けや竿で鯛釣りをやってもらって成果が出たので、私としても自分の釣り方が間違っていなかったのだなと思い、良かったと思います。
  その後、その若者は、自前の鯛ラバの竿とリールと仕掛けを揃え、再び私と海原に打って出まして、私よりも大きな鯛を釣りました。「あー、いっきに抜かれたな-。」と思いつつ、心の中でちょっと嬉しく感じております。今年の2月末にも寒い中、一緒に沖メバル(テリ)、黒メバルの釣りに行き、若者は何回か仕掛けを岩に引っかけて重りを失っておりましたが、結果的に大漁を得ております。
  仕事に置き換えると、今後、一緒に仕事をしていく世代もかなり若くなり、自分たちの世代とはまたひと味違ったスキルや考え方を持っている世代ですが、いつの時代もどの分野でも「基本」は同じであり、それは上司が後輩に伝え、そこから後輩が「アレンジ」し、「さらなる発展」となっていくのだろうなと思います。私自身も医療者としてはまだ若輩ですから、基本とアレンジを意識しながら、仕事に精進し、トレーニングしつつ、やはりまた海原に出て釣りをしようと思います。
 
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