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<ペンリレー>

発行日2019/11/10
中通総合病院   奥山 慎
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医師を育てる
 
  2019年3月に秋田大学医学部を「卒業」し、中通総合病院に移りました。これまでは教官、これからは医師という気持ちでいましたが、「医師を育てる」ことに関しては今まで以上の立場になったような気がします。
  今回は、医学教育の変遷について、私見を交えながら書かせていただきます。

■ 医学部での講義
  私が医学生だった頃、講義と言えば、暗い部屋で教授がスライドを用いてするものでした。もちろんラテン語板書の名物教授もいらっしゃいましたが、ほとんどはスライドでした。ちなみにスライド係は見るからに眠そうな若手ドクター。

最近の医学部講義
・1コマ80分、1日5コマ
・教える内容は文科省のコアカリュラムで規定されている
・実習時間が増大したため、講義総数はかなり縮小している
・配付資料はWebにアップロードし、学生が講義前にダウンロードする

  当時、講義内容は大学によってかなり偏っていたと思います。現在は「医学教育モデルカリキュラム」という指針が文科省から示され、在学中に学ぶことが細かく規定されました。この指針のおかげで指導内容の標準化が進んでいます。しかしながら、実習時間を増やすために講義時間はかなり減らされました。当初、「膠原病」講義はたった2日間しか当てられませんでした。これでは秋田県の膠原病内科医が増えるわけがありません。方々と戦…いやいや交渉して少々増やすことに成功しました。まだコマ数は少ないのですが、その中で腎臓・リウマチ・膠原病の魅力を伝えるべく講義の準備をしています。ちなみに、私は今年度も11コマ担当いたします。

■ 講義後の試験
  試験問題をつくるのも頭を使います。例を出します。

例題(簡略化した病歴のみ) 50歳の女性。5年前から冬になると指先が白くなるのを自覚していた。3年前から久しぶりに会った友人に「表情が硬くなった」、「笑わなくなった」と言われたが、心当たりはなかった。1ヶ月前から階段を登るときに息切れがひどくなったため受診した。背部にfine cracklesを聴取し、胸部エックス線にて間質性肺疾患を認めた。心雑音も聴取し、心電図では右心負荷所見を認めた。次に行うことは何か。

  これは、全身性強皮症で肺高血圧を呈していることを想定した問題です。答えは心エコーを選ばせる問題です。
  かつての試験問題は、「診断は何か」が多かったのですが、今は2~3段階式です。つまり、病歴や所見から診断をつけて、その診断の合併症を想定させて、さらにその合併症を発見するための侵襲度の低い検査を答えさせるのです。
  出題者も「判別指数(識別指数)」で評価されます。この指数は、「成績優秀者が正解して、成績不良者が間違える」と高評価されます。難しくしすぎても簡単にしすぎてもダメです。これは毎回とても悩みます。

■ 臨床実習とOSCE
  私の頃には、病棟実習をBST (bedside teaching)と呼んでいました。その後、教わる(teaching)から積極的に学ぶ(learning)べしとBSLと呼称が変わりました。そして、見学型から診療参加型となり秋田大学では2003年から臨床配属(CC、 clinical clerkship)が始まりました。医学生は診療チームの一員として、患者さんの病歴を取り、診察し、プレゼンテーションし、そして診療録も記載します。当初は、5年生でBSL全科を終了した6年生が3週間ずつ診療科に配属されていました。
  今では医学部4年生から診療参加型実習スタートです。まず全科を2週間ローテートするCC1、 そしてCC1が終了した5年生後半からは希望する診療科に5週間ずつ配属されるCC2となっています。このCC2は研修病院でも引き受けることになっており、私の腎臓・リウマチ科にも3人の学生が5週間ずつ来てくれることになっています。「病院に5週間」ではなく「うちの科に5週間」なのですから、責任重大です。
  このように医学実習が大きく変わってきた理由はふたつあります。
  時間が大幅に増えた理由は、これまでの秋田大学の実習時間が「国際基準」に足りなかったからです。つまり、従来の実習時間では秋田大学卒業生が外国で働けない可能性があったのです。
  次に、見学型から診療参加型になった理由は、言うまでもなく社会からのニーズです。医師国家試験に合格したら、すぐにチームの一員となって診療に参加できるようにするためです。
  そのため実技試験であるOSCE(オスキー)も実践的になってきました。OSCEには、臨床実習開始前(Pre-CC) OSCEと臨床実習終了後(Post-CC) OSCEがあります。開始前では「この学生を診療参加型実習させて良いか」を評価します。コミュニケーションスキルと基本的診察スキルを評価します。これに対して終了後OSCEはもっと実践的です。

臨床実習終了後OSCE (Post-CC OSCE)の流れ
1.試験開始後、受験生は外にいる模擬患者を診察室に呼び入れる
2.自己紹介、患者確認、本日診察することの同意を得る
3.問診:主訴、既往歴、家族歴、生活歴など必要な情報を得る(適切に聞かないと模擬患者は重要事項を喋らないようになっている)
4.身体診察:問診で得た情報から適切な身体診察をする(全身診察すると時間が足りないので注意) ※1~4までで12分間
5.病歴と身体所見をまとめて、プレゼンテーションする
6.さらに想定する疾患、鑑別診断を述べる ※5~6で4分間

  この臨床研修終了後OSCEは、「この医学生が初期研修医として実戦投入して構わないか」が評価基準です。初期のOSCEは、「診察がそれっぽく見えればOK」レベルでしたが、年々実践的になってきています。

■ 初期研修
 2004年にスタートした新臨床研修制度ですが、2020年度から下記のように改定されます。

初期臨床研修の必修事項
1.内科分野24週以上
2.救急分野12週以上
3.外科分野4週以上(8週以上が望ましい)
4.小児科分野4週以上(8週以上が望ましい)
5.産婦人科分野4週以上(8週以上が望ましい)
6.精神科分野4週以上(8週以上が望ましい、急性期入院患者の診療)
7.地域医療分野4週以上(8週以上が望ましい)
8.一般外来4週以上(8週以上が望ましい)

  ついに一般外来も必修となりました。これまで各科ローテートのみで許されましたが、外来診療もしなければなりません。ここに専門外来や救急外来、健診や予防接種は含みません。一般内科、一般外科、小児科の外来です。専門外来のみの病院では、自施設のみで初期臨床研修ができないということです。
  想定される外来診療としては、1回の外来で数名の初診患者を問診、診察して指導医に報告し、指導医とともに対応することです。先ほどの臨床実習終了後OSCEは、この一般外来研修を想定しています。

■ 私のこれから
  私は、今後も医師を育てることに関わります。医学部においては、講義、臨床実習の受け入れ、そして臨床実習終了後OSCE外部評価者として。病院においては、初期研修、および内科専門研修(後期研修)のプログラム責任者を務める見込みです。
  幸いなことに、これらの仕事は必ずしも臨床力を必要としていません。私のような人間が打ち込むことを許される仕事です。足りない部分を皆さまのご指導でカバーし、優れた良医を育てることで、お礼とお詫びに代えさせていただきたいと思っています。
  今後ともご指導のほど、お願いいたします。

  次は、同じく3月に大学の第三内科を「卒業」した市立秋田総合病院の渡部敦先生にバトンを渡します。
 
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