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<ペンリレー>

発行日2019/05/10
飯島透析クリニック  工藤 茂高
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北限の蝶 ~ジャコウアゲハ~
 
  いつも大変お世話になっている秋田厚生医療センターの大谷浩先生からバトンを引き継ぎましたが、元来、人様に紹介できるような特技や才能を持ち合わせていませんので、少年時代からはまっている北限の蝶ジャコウアゲハの飼育、完全変態について書いてみようと思います。
 北限という言葉はもともと生物学の用語で、南方の生物が、この地より北に生息しない場合、この地をその生物の北限と言っている。ウマノスズクサは南方系の植物で県南では雄物川流域には相当自生しているが、八郎潟を過ぎて北上すると点在する程度になってしまう。それでも以前は十二湖、八森まで分布していたが、この草が川岸の砂地を好むことから、最近の護岸工事ですっかり適地を奪われ、今の所能代が北限とされている。この植物を食草にしているジャコウアゲハも、食草のこのような変化から現在は能代より北には見られなくなってしまった。つまり能代が北限となったわけである。
  私の実家は秋田県能代市花園町で実家の庭にはこのウマノスズクサが生えており実家の庭がまさに北限ということになる。(正確には能代厚生医療センターより100m北の田んぼ脇が調べ得たかぎりでは北限ではないかと推測する)毎年のようにモンシロチョウやアゲハ蝶、ジャコウアゲハが庭で羽化し産卵のため飛んで来る。幼少期からこういう環境で育ちアゲハ蝶に魅せられてきた。他のアゲハ蝶はバタバタと羽ばたくのに対してジャコウアゲハはフワフワゆらゆらと舞い妖しい魅力を感じさせる飛び方をする。その姿を見ているとフラフラと誘われそうになる。妖艶の舞いである。
 保戸野の自宅の庭で飼育している様子です。
  幼虫は黒褐色~黒色で白色の帯がある。全身に太い突起があり、突起の先端は赤い。毒草であるウマノスズクサを食べて育ち、その毒を体内に蓄えている。正に毒々しい。食欲旺盛ですぐに食糧難となります。写真の鉢は葉を挿し木にし増やしたものですがあっというまに食べつくされてしまいます。飼育難易度はよく食べよく育つため食糧さえあれば簡単です。
 蛹は「お菊虫」と呼ばれるが、これは各地に残る怪談『皿屋敷』の「お菊」に由来する。寛政7年(1795年)には、播磨国・姫路城下に後ろ手に縛られた女性のような姿をした虫の蛹が大発生し、城下の人々は「昔、姫路城で殺されたお菊の幽霊が、虫の姿を借りてこの世に帰ってきているのだ」と噂したという。このことに因み、兵庫県姫路市ではジャコウアゲハを市の蝶に指定している。
成虫は前翅長45mm-65mm、翅を大きく開くと10cmほど。他のアゲハチョウに比べると、後翅が斜め後方に細長く伸びる。成虫は雌雄の判別が容易で、雄の翅色はビロードのような光沢のある黒色だが、雌は明るい褐色である。雄の成虫の腹端から発する麝香の香り(ムスク)が和名の由来である、なんともオシャレな蝶である。
  ジャコウアゲハが食べるウマノスズクサは、毒性のあるアリストロキア酸を含み、幼虫時代にその葉を食べることによって、体内に毒を蓄積する。この毒は一生を通して体内に残るため、ジャコウアゲハを食べた捕食者は中毒をおこし、遂には捕食したものを殆ど吐き出してしまう。一度ジャコウアゲハを捕食して中毒を経験した捕食者は、ジャコウアゲハを捕食しなくなる。このため、ジャコウアゲハに擬態して身を守る昆虫もいくつか存在し、このような擬態をベーツ擬態と呼ぶ。日本で見られる例としては、クロアゲハ 、オナガアゲハ 、アゲハモドキ はジャコウアゲハのベーツ擬態である。
 蝶、蚊、ハエ、ハチ、カブトムシ、アリなどは完全変態で卵→幼虫→蛹→成虫という段階を経る。一方、セミ、カマキリ、トンボ、バッタ、ゴキブリなどは、蛹を経ず、幼虫から直接成虫に変態する、これを不完全変態という。
  蛹はまた神秘的で、蛹の中身は幼虫の時に形成された器官を一旦体内でドロドロの状態に溶かして新たな器官を作り直す。これこそが代替医療、再生医療。腎不全患者が体内で不全な腎臓を溶かして正常な腎臓を再生できたら。幼虫から成虫を年に3-4回繰り返す。最後の蛹は、春が来るまでの約半年もの期間しばしの休眠状態となる。癌の休眠療法のヒントがここにあるかも。実際昆虫は生態系の維持・研究に役立っている。人間以上の生命力を持つ昆虫は宇宙人が地球の発展のためにくれたプレゼントなのか。「昆虫宇宙起源説」これは地球の生態系が確立されつつあった古代のある時期に、隕石か宇宙人かは不明だが、何かによって地球に持ち込まれた別の惑星由来の生物の卵から生まれた原始昆虫が、この星の環境に適応して進化したものが現在の昆虫類だ、とする説だ。昆虫は落ちた隕石についていた卵から生まれた地球外生命体だと聞いた事がある 。昆虫の血が緑色なのがこれを裏付ける。同じような話だがキノコとウイルスも隕石にくっついてきた説がある。
  丁度このペンリレーを執筆している時に世界フィギュア選手権2019が開催されている。女子のFSで黒い衣装に赤いスカートをまとったアリーナ・ザギトワ(著作権の関係で写真を掲載できないのが残念ですが)の圧巻で妖艶な演技、氷上での舞がジャコウアゲハ蝶のようで胸が高鳴り興奮せずにはいられなかった私は完全変態ではありません。ロシアの貴女こそが北限の蝶だったのですね。

 次は、いつも透析でお世話になっているさが医院の嵯峨大介先生にお願いしました。
 
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