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<ペンリレー>

発行日2018/06/10
秋田赤十字病院  照井 元
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“眠前処方2”
 
  以前、“眠前処方”で書かせていただいた事がありました。今回、また巡って来ましたので、“その2”を書いてみます。私は相変わらず、読書+CDを聞いて、寝る前の時間を過ごしています。知らない事が沢山あって、社会を如何に知らないか、自分には時間がもう無いと50歳前後から妙に意識し始めました。そのため、30~40代の頃の文芸書よりは実用書と言うか歴史書・科学史に傾いてきていますが、基本は乱読です。最近、記憶に残っている本を紹介いたします。

“1493入門世界史” チャールズCマン著/あすなろ書房
  北米大陸がコロンブスによってヨーロッパへ紹介され、これがグローバリゼーションの先駆けになったという内容です。タバコ・じゃがいも・ゴムなどを例にして、物流が起こるとマーケットで売買が成立するという流れです。また、物流以外にも疾病を世界にバラ撒いたという意味のグローバリゼーションの記載もありました。原文が良いのか訳者が良いのか一気に読み進め、久々に面白かった本です。息子に勧めたところ珍しく戻ってきませんので、多分息子も読んでいると思われます。

“最後の秘境 東京藝大” 二宮敦人著/新潮社
  音楽と美術の名門大在学中の天才たちの実態を描いています。門から入って、左側の建物が美術学部“美校”、右側が音楽学部“音校”に分かれています。学生・教官とも芸術家というか、ある意味職人ですので自身が納得行くまで作品と向き合う現場が描かれています。ざっと見て小奇麗なのが音校で、奇抜で綺麗じゃないのが美校というのが著者の見解でした。入学式で学長が“何年かに一人の天才が出れば良い。他の人はその礎です。ここはそういう大学なのです。”と式辞を述べた年があったそうです。やる気を削がれるというか、超厳しい世界というか。内容が、いちいち新鮮で驚きの連続です。息子に勧めたところ、翌日戻ってきましたので、この本は読まれていない様です。

“量子革命” マンジットクマール著・青木薫訳/新潮社
  科学の内容を理解するのは難しいですが、科学史に関して万人向けに書かれている本は取りつきやすいです。1900年マックスプランクの閃きによって量子論が始まりました。光・電磁放射エネルギーは、ある大きさの塊でしか物質に吸収・放出されないと考えたことです。その塊に対して“量子”とプランクが命名しました。原子内部の電子についても、そのエネルギーは“量子化”(とびとびの値のエネルギー量しか持てない)されていることが明らかになります。1927年ソルヴェイ会議で物理学者29名の集合写真が撮られています。うち17名がノーベル賞を受賞しているそうですが、その写真に日本人が一人も含まれていないのが残念です。論点は薄らと分かりますが、本質を理解できない自分が居て、本書を3度読み返しています。

“ウラニウム戦争” アミールDアクゼル著・久保儀明訳/青土社
  元素は不変であると信じられてきましたが、ウランが自然崩壊するという事、更にウランがある条件下で核分裂を起こすという研究活動と、それらを扱う科学者が政治・戦争に深く関わった科学史です。マイトナーが原子核分裂の過程を初めて解読・報告し、1939年フェルミ、ボーア、シラード、キュリーらが核分裂の連鎖反応が可能であると理論づけました。その後、1942年フェルミが初めて核分裂の連鎖反応を引き起こし、マンハッタン計画として原子爆弾の開発・投下に至るまでのストーリーです。科学者は“研究者”として成果を発表しますが、政治家は“自国の人間を守る責任者”として決断します。また、マイトナーがユダヤ系女性であった事が災いして、性差別と人種差別の両方と闘わなければならず、その功績にも関わらずノーベル賞とも無縁であったことが不憫でなりません。この本も気になっていて、3度読み返しています。

“白い航跡” 吉村昭 著/講談社文庫
  ジュンク堂をぶらついていた時、眼に止まりました。昨年秋に“冠動脈危険因子”と言うタイトルで喋った事がありますが、そのとき話が疫学に及び、コレラとDr.ジョンスノー、脚気とDr.高木兼寛に行きあたりました。本を手に取って、この事かとニンマリして購入しました。脚気の原因が判明するのは約30年後になりますが、原因不明のままでも統計に基づいて米飯に麦を混ぜる対策を考え、海軍の脚気発症者・死者を激減させた実証主義にあっぱれです。学生の頃に読みたかったです。

“パリは燃えているか?” ラリーコリンズ著・志摩隆訳/ハヤカワノンフィクション文庫
  “映像の世紀”というNHKのTV番組がありました。第一次世界大戦以降の社会を、保存映像によってテーマ毎に放送した番組です。バックに流れる曲が、絶望・哀愁・運命、それでも前進しようとする人間の姿などにピッタリで、妙に記憶に残っていました。昨年、本書と同じ曲名と分かり、タイトルに惹かれて購入しました。第二次世界大戦のヨーロッパ戦線末期にパリ解放がありました。“パリを死守せよ。それが不可能になった時には廃墟とせよ。”と、いうヒトラーの命令を遂行しなかったパリ防衛司令官コルティッツ将軍が描かれています。自国の敗戦が確実になった時点で、歴史的文化遺産の保存か上官命令かのどちらを取るかを彼自身が悩んで決断したことでしょう。自身の命令が遂行されたか気になって、ヒトラーがベルリンの部下に本書タイトルの質問をしたそうです。米軍なしでは現在のパリの街並みは無かったのです。

“ファーストマン” ジェイムズRハンセン著・日暮雅道訳/SoftBank Creative
  ケネディー大統領の号令の下、NASAが設立されて様々な所から集まったパイロットの中でアームストロング、コリンズ、オルドリンの3名が月面着陸メンバーに選ばれました。経歴・性格・訓練結果などで船長になったのはアームストロングでした。月周回軌道の司令船にコリンズが残り、アームストロングとオルドリンが月着陸船に移ります。着陸後に狭い船内から順番に降りますが、出口近くの座席に居たアームストロングが先に降りることになります。これを、オルドリンが人類初の栄誉を逃したと悔しがります。癪に障ったのでしょうか、オルドリンは月面で同僚のアームストロングをカメラ撮影していません。最先端科学に取り巻かれながらも、人間臭さがプンプンします。また、彼ら3人を含めてアポロ計画のパイロットの年齢がいずれも30台後半~40台前半であることに気付きました。心技体が最も充実しているとNASAが判断した年齢層でしょう。彼ら3人の帰還後写真が私のPC壁紙になっています。

“スヌーピー こんな生き方探してみよう” チャールズMシュルツ著・谷川俊太郎訳/朝日文庫
  言わずと知れた4コマ漫画です。スヌーピーや、チャーリブラウンと仲間たちを通して、友情・夢・いたわり・感謝・生き方などが語られます。子供と動物の口から出た言葉に、読み終わると優しい気持ちになります。ただ、英文を読んでから和訳を読んで“ふ~ん”とか“こういう事か”とか納得しますので、普段の倍の時間がかかりました。更に、スヌーピー特有の皮肉とか人生論とか哲学とかがオチになる事もあり、読んでいて疲れることもあります。

  次は、毎週外来診療を手伝って頂いている勝田光明先生にお願いしました。
 
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