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<ペンリレー>

発行日2018/03/10
秋田厚生医療センター  谷川 秀郎
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手作り味噌
 
  昔から我が家には横手に住む祖母から手作り味噌が定期的に届きました。子供の私は「我が家の味噌は市販のものとは一味違う」などとちょっと誇らしく思ったものです。そんな祖母も数年前に他界し、それまでは当たり前のように手に入った手作り味噌が急に貴重なものに思えるようになりました。
  ところで、みなさんは味噌って何からできているかご存知でしょうか。私は恥ずかしながらよくは知りませんでした。そこで少し調べてみると、味噌にはいろいろな種類があるにせよ、おおむね大豆、米、塩を原料としていることがわかりました。それまで「味噌とは田舎のお母さんが各家庭の秘伝の製法で作り上げるものかな」ぐらいの認識でしたが、インターネットで調べてみると案外簡単に作れそうなこともわかりました。
  味噌の仕込みは、まず大豆を茹であげてつぶし、そこに麹と塩を混ぜ合わせる、という実にシンプルなものです。麹はスーパーで販売されているものを使うこともできますが、それだとなんとなく「手作りしたぞ」という実感が薄い気もします。というわけで、麹も自作すべく、種麹(麹カビの胞子)を通販で取り寄せました。しかしこれが苦労の始まりでした。以下、私の味噌づくりをご紹介します。
  まず、大豆、うるち米(私はもちろん秋田県産あきたこまち)、塩を用意します。分量についてはインターネットで検索するといろいろ出てきますが、うるち米の割合を増やせば甘口、減らせば辛口となるようです。ちなみに秋田県の味噌の多くは甘口とのこと。
  麹は蒸したうるち米に種麹を振りかけ、湿度と温度を一定に保ちつつ時々攪拌して作ります。しかし、まずうるち米を蒸す、ということからして未知の世界です。本来であればせいろで蒸すのでしょうが、あいにく我が家にせいろはありません。試行錯誤の末、圧力鍋で蒸すとうまくいくことがわかりました。続いて「蒸した米を広げて種麹をまんべんなく振りかける」のですが、どこに広げるのか??テーブルをよく拭いてきれいにし、その上で作業している人もいるようですが、コンタミネーションの可能性を考えるとあまり感心しません。結局テーブルの上にラップを敷き、エタノールで消毒して作業台としました。作業中はポリ手袋も装着して清潔操作を心がけます。蒸し米に種麹をふりかけまんべんなくいきわたらせたものを消毒したポリ容器に移し、いよいよ保温に入りますが、我が家には保温室などありませんから、これが結構厄介です。「ヨーグルト製造機」というようなコンパクトな保温器具も売っているようですが、発泡スチロールの箱やホットカーペット、毛布などを駆使していろいろやってみた結果、無理のないうまい方法を編み出しました。が、これは説明すると長くなるので割愛します。ただ、麹カビを効率よく生やすためには保温よりもむしろ適度な湿度をキープすることの方が重要なようです。湿度をキープするために水で濡らしたキッチンペーパーを蒸し米にかぶせる方法に行きつきましたが、ここで「キッチンペーパーは無菌じゃないのでは?」という突っ込みはナシでお願いします(笑)。また、麹カビは好気性ですから、酸素を行きわたらせる工夫も必要です。温度管理は昔熱帯魚飼育で使用した温度計を用いました。無論、よく消毒しています。温度が高すぎると麹カビではなく納豆菌が繁殖するらしいので、要注意です。至適温度はおおむね32℃~35℃といったところでしょうか。
  麹カビがうまく繁殖してくればかなりの熱が生じますので、途中から保温は不要になります。最終的にもふもふの麹になるまで3日間。はっきり言って、味噌づくりの労力のうち、この麹づくりが体感的に8割方を占めますが出来上がった「自分だけの麹」は愛着がわいてきます。実験ノートのようなものを作り、自分の製法を極めるのもいいですね。
  最後に圧力鍋で茹でた大豆をマッシャーでつぶし、麹、塩を加えて混ぜ合わせます。そして大事なことですが、ここで今現在手元にある「手作り味噌」を少し混ぜ合わせます。こうして「我が家の味噌」の特徴を次世代に継承していくのです。これらを「つけもの袋」として売っているポリ袋に詰め込み、輪ゴムで口を縛って日陰に置きます。気分を高めたい場合は木製の味噌樽というのも販売されておりそれを利用してもいいですが、そこまでやる必要はないでしょう。仕込み時期にもよりますが、9か月程度放置すれば完成です。時々出来栄えをチェックするのも楽しみの一つです。味噌づくりにおいては青カビや黒カビが発生しやすいそうですが、清潔操作に努めているせいか、これまで一度もそうしたカビが出たことはありません。もっとも、田舎のお母さんがそんなことを気にしているとは思えず、また幼稚園児が素手でこねこねして仕込み作業をしているのをテレビで見たことがあるので、清潔操作などは全く不要なのかもしれませんが、その辺は気分次第ということでどうぞ。
  以上、ここまでお読みいただきありがとうございます。みなさんの中には「自前の味噌を増やすなら、売ってる味噌に今使っている味噌を混ぜて放置でいいのでは?」と思われた方もいらっしゃると思います。まさにそのとおりなのですが(笑)、手間をかけたほうが次世代の味噌により風味が受け継がれるような気がします。なお、市販の味噌を用いる場合はアルコールが含まれていないものを使用してください。
  次回は臨床のみならず、当院の研修医指導で大活躍されている小児外科の畑澤千秋先生にお願いいたしました。
 
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