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<ペンリレー>

発行日2018/01/10
秋田県立医療療育センター  豊野 美幸
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愛犬との生活
 
  3年半前から我が家で犬を飼い始めました。白いポメラニアンで、名前は「まろ」。以前から息子と主人は犬を飼いたがっていたのですが、娘が大の動物嫌いで、道で散歩中の犬とすれ違うだけでも怖がって私の陰に隠れている状態なので、家で犬を飼うのは無理だろうと思っていました。しかし、私も子どもの時に犬を飼った経験があり、犬好きなので、どうしても犬が飼いたくなりました。そして、犬は息子の部屋で飼い、絶対に息子の部屋から出さない、という約束で娘を説得し、3対1の多数決で犬を飼うことに決定しました。私はネットで犬を飼うためのノウハウを調べ、ペットショップではなくブリーダーさんから直接犬を譲り受けたほうが良いことを知り、秋田県内の犬のブリーダーを検索しました。すると、ちょうど潟上市のブリーダーさんが白いポメラニアンを掲載しているのを見つけ、息子と一緒に早速見せてもらいに行きました。そこにはオスとメスの生後3か月の白くてコロコロした小犬が2匹いました。もう、ひと目惚れしてオスのワンちゃんを買うことにしました。そして「まろ」は、その時高校3年生のこれから受験勉強に本腰を入れなければならない息子の部屋で飼うことになったのです。主人も私もついつい息子の部屋をのぞいては、「まろ」の様子を見に行きました。息子はいつも部屋でエレキギターを弾いていたので、まろは息子の足元でぺたっと伏せながら、ギターを聞かされていました。当時、中学3年生だった娘だけは「まろ」には見向きもせず、不機嫌な顔をしていました。息子は翌年無事大学に合格し、家を出て行きました。息子の部屋はまろの部屋になりました。「絶対に息子の部屋から出さない」という約束はいつの間にかうやむやになり、娘が家にいない時や娘が自分の部屋にこもっている時は、まろはリビングで自由に走り回っています。しかし、まろが家にきてから3年以上経った今でも、娘は犬嫌いで、一度も触ったことがありません。そして、娘が部屋から出る時は「出るよ~」と言うので、その声を聞いたまろはいつもビクッとしてテーブルの下に隠れます。その後、まろは自分の部屋に直行することになるのです。一度、娘がリビングでテレビを見ている時に、部屋から脱走したまろがリビングに走って来たことがありました。それを見た娘は「なんで来るの~」と驚いて反射的にダイニングテーブルの上に飛び乗って泣き出してしまいました。娘とまろはそれぞれの存在がストレスになっているようです。しかし、主人と私は「まろ」のお陰で沢山の幸せな時間を持てるようになりました。年頃の娘は父親がうっとうしい時期で、主人が話しかけてもほとんど相手にしてくれません。でも、まろは主人が大好きで主人が帰ると走って駆け寄って行きます。そして、ビールを飲みながらくつろいでいる主人の横に寝そべり、エサを食べさせてもらうのが好きなのです。まろが主人の相手をしてくれるので、夕飯ができるまでの間、主人が空腹でイライラせずに済んで助かっています。私もどんなに疲れていてもまろをなでていると、癒され、ストレスが吹き飛んでいきます。犬を飼ったお陰で日々の精神的な安定を保っていられるように思います。
  精神的な安定と言えば、アニマルセラピーという言葉をご存知でしょうか。アニマルセラピーとは、日本における造語で、医師を始めとする医療従事者が参画して行う動物介在療法と医師を伴わずに動物との触れ合いを通じて生活の質の向上を目指す動物介在活動、そして動物の飼育を通じて学童の社会性や協調性、思いやりの心などを育てる動物介在教育などを合わせた日本独自の概念のようです。一般的にアニマルセラピーから受ける恩恵は3つあります。①生理的効果、②心理的効果、③社会的効果です。

①生理的効果
  体内においてホルモンや脳内伝達物質、神経系の変化が生じることによるプラスの効果です。例えば、動物と接する人の脳内では「ドーパミン」の分泌が増えるといわれています。ドーパミンは「楽しい」という感情の源で、セラピーを受けている人の中では「動物と接していると楽しい!」という体感として経験されます。また動物と接しているときの人の体内では「副交感神経」が優位になって、末梢神経の拡張、血圧の低下、心拍数の抑制など、いわゆる「リラックス」した状態を作り出します。動物と接するときに多くの人が感じる「落ち着く」「癒される」という感覚は、この副交感神経によって生み出されます。
②心理的効果
  動物との接触によって人の内面や行動がプラスの恩恵を受けることです。例えば、一度動物と接して楽しい経験をすると「犬のおなかは柔らかかったなぁ・・・」、「またワンちゃんにあいたいなぁ・・・」というように頭の中で動物と一緒の風景を思い返すだけで、その時に経験した「楽しい」という感情が再現されるようになります。動物と触れ合った記憶の想起により日常生活の中で「楽しい!」という感情が増えると、単純に抑うつ症状の改善になり、免疫力の向上にもつながります。また、「動物ともう一度触れ合いたいから学校に行こう!」、「犬と散歩したいからリハビリがんばろう!」といった思考に結びつくと、患者を回復に向かわせる動機づけとなります。
③社会的効果
  動物と接することにより、人と人との交流が円滑になる効果です。例えば、老人ホームで人とほとんど話をすることのなかった非社交的な老人が、アニマルセラピーの一環として触れ合った犬の話題を通じて、他の入所者と会話をするようになるなどです。
  確かに、犬を連れて散歩をしていると、見ず知らずの人からも「かわいいですね」「触ってもいいですか」と話しかけられ、犬がいなければ絶対会話することがない人とも会話が弾み、コミュニケーションが広がります。
  しかし、これらの効果は動物好きな人にとっての効果であり、娘のように動物嫌いの人にとっては逆効果なのかもしれません。一緒に暮らしていれば、情が移って可愛くなるのでは、と期待したのですが無理でした。今は娘が自立して家を離れ、まろが誰にも気兼ねせずに、家の中を自由に走り回れる日が来ることを密かに期待しています。次回は同じ職場の大先輩である整形外科の石原芳人先生にお願いいたします。
 
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