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<ペンリレー>

発行日2015/08/10
秋田赤十字病院  荻野 奈央
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インドカレーと歳を取ること
 
 大好きなインドカレー屋さんは秋田市外旭川某所にあります。ネパール出身の方がインドに行って修業してきたそうです。3年ぶりに秋田市に帰ってきて、通えるようになったのが嬉しいです。おそらくどのメニューも美味しいと思いますが、個人的にはホウレン草のパニルカレーが一番好きです。パニルはインド風のカッテージチーズで、熱に強く食感が絶妙です。
 カレーは好きですが3週間毎日カレーを食べ続けたのは、今の所人生で一度きりです。大学生3年生の時に、インドのコルカタに行った時です。コルカタには、マザーテレサが作った学校、孤児院やハンディキャップを抱えた人が住む場所など7つの施設があります。私がインドに行ったのは、その中の一つである「カリガート(死を待つ人の家)」でボランティアとして働かせてもらうためでした。
 インドにあるカーストという身分制度は、ヒンドゥー社会に深く根付いています。生まれた時の身分は死んだ後も未来永劫変わらないそうです。さらに、カースト制度に当てはまりすらしないアウトカーストという存在があります。アウトカーストの人は人として認められていないです。路上で生まれ、路上で死んでいく存在です。マザーテレサは、そうやって亡くなっていく人たちに「せめて死ぬときくらい屋根の下で、汚れていない服を着せて温かい飲み物を飲んで人間らしく死を迎えてほしい」と思いこの施設を作ったそうです。私は小学生の頃にマザーテレサの本を読み、とても祖母の顔に似ていたので(今でもとても似ていると思います)、親近感を持っていました。いつか行ってみたいと思っていたら、ついに願いが叶い、友人達と4人で行けることになったのです。
 最初に施設を統括する総本部に行って、挨拶とお祈りをして働く許可をもらい、念願だったカリガートで働き始めました。建物の中は男性部屋と女性部屋を仕切るコンクリートの壁がある以外はとてもオープンな造りで、寝返りをうつのも大変な幅の狭いベッドが30㎝位の間隔をあけてずらっと並んでいました。最初に「一番右奥の人が結核の人よ。向かいの人は結核がうつった人。あなたは右の結核の人を担当してね」とか言われたと思います。もちろん医学的なことは何一つできないのでその人のお風呂や排泄の介助やご飯の支度、掃除などをしました。マスクなんかない所で、その人が咳をすればベッドの下にある痰ツボを差し出して咳が落ち着くまで傍にいました。天井には2個のファンが回っていて空気はしっかりと循環していました。結核が日本では厳重に隔離されるべき病気であることを知り驚いたのは、それからもう少し後のことでした。まあそれはさておきUniversal languageであるはず英語はあの場所では役に立ちませんでした。インドでは、中流階級以上では教育が進んでいるので、一般家庭に住むインド人は英語を話します。ですが、アウトカーストの人々になると話は別で英語は全く話さないですし、方言は2000種類ぐらいあるそうで現地のボランティアスタッフも完全に全員の言っていることを分からない状態です。もう仕方ないので日本語でしゃべっていました。言葉は最初全く理解できませんでしたが、根気強く見ていると、向こうも根気強く伝えようとしてくれ、だんだんして欲しいことが分かってきました。毎日通い詰めているとだんだん仲良くなり、何語だか分からない歌をみんなで歌ったり、体を動かしたりして楽しく過ごしました。カリガートで働く最後の日に、結核の女の人が私に「マエ トゥムセ パロパティ」と呪文みたいな事を言っていました。初めて聞く言葉で何度聞いても意味が分からなかったですが、なんとか聞き取れたので手に書いて、ホームステイ先の家族に意味を聞きました。「それは I love youの意味だよ」と教えてもらいました。自分が3週間でできたことはあまりなかったですが、それでも毎日痰ツボを差し出しお話ししたこと、仲良くなれたと思ったのは自分だけではなかったんだと思え嬉しくなりました。
 滞在中は一般家庭の家にホームステイさせてもらいました。40度近い連日の熱帯夜と、毎晩蚊に10か所以上さされ続けることと、ベッドの上を探せば必ずいる数匹の蟻と、たまに移動する天井や壁にいる2匹のやもりのおかげで、どこでも眠れる力が鍛えられたと思います。毎日数種類のカレーを作ってくれて、インド人は本当に毎日カレーを食べているんだなと驚きました。家の近くにマトンが数匹いるお店があったのですが、ある日家に帰る途中で店のマトンが1匹減っていました。その日の夕食のカレーがマトンだったので、なんだか複雑でした。外旭川のカレー屋さんのメニューはだいたい食べていますが、マトンはあの時の少しさみしい気持ちを思い出すのであまり食べないです。でもたまに食べると美味しいです。
 話は変わりますが、職場の上司の先生が先日たまたま私の学生時代の写真を見たとのことで、これを書く前日に「学生時代の写真見たけど、歳を取ったね」とはっきり言われました。これもまた複雑な気分になりましたが、事実なので受け止めようと思います。インドに行った時から月日は経ちますが、これからもいろんな所へ行き、仕事でもプライベートでもいろんな人と向き合いながら歳を取れたらいいなあと思います。また別の上司には婚活をがんばれと日々言われているので、セクハラには負けませんがそちらも努力してゆく次第です。
 次は、それこそ若くて努力家の、当院小児科の長谷川一太先生にお願いします。
 
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