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<ペンリレー>

発行日2015/03/10
いなば内科胃腸科クリニック  稲葉 宏次
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コーラとは!
 
 「年男になって」を書き終わったとたん、この依頼がきてしまいました。米山先生、及川先生と高校の同期かつ同じ消化器内科医という流れであり、つい引き受けてしまいました。特に学識や趣味も特技もない自分ですが、日頃いろいろお世話になっている鹿嶋先生が以前、柿と便秘のお話を寄稿されていたことを思い出し、今度は柿と石についての話をさせていただきますので、お付き合いください。
 胆道、膵臓、尿路系と体内のいくつかの臓器に石ができますが、胃にも石ができることを皆さんご存知でしょうか?病名もそのままズバリ胃石といいます。胃石は、植物胃石、毛髪胃石、毛髪植物胃石、その他の4つに分類されますが、本邦ではほとんどが植物胃石であり、そのうちの90%が柿胃石で柿の収穫期の11月から12月にかけて多いとされています。渋柿の主成分であるシブオール(タンニン)が胃酸の影響により可溶性から不溶性に変化し、食物中の蛋白と膠着凝固を起こして結石を作るといわれています。頻度的には比較的まれですが、胃石は高頻度に胃潰瘍や腸閉塞などをきたすので何らかの方法で除去する必要があります。以前は内視鏡医にとって治療に難渋する疾患でした。とにかく外側の殻が非常に硬く、総胆管結石を砕くような道具ではなかなか砕ききれません。治療時間や費用もかかります。手術例の報告もありますが、内視鏡医にとっては何とか手術を回避し、侵襲の少ない内視鏡治療で摘出したい石です。
 私も10年前に治療を行う機会がありましたが、7cm大と5cm大の2個の胃石を持った患者さんで、過去の報告の通り胃潰瘍を伴っていました。胃石の内視鏡治療として、鉗子やバスケット鉗子、スネアを用いて砕いたりしますが、外殻が硬く不成功に終わることもあります。自験例の場合は、1991年に、本邦で初めて電気水圧衝撃波(EHL)を用いて胃石を治療した医局の先輩の論文を参考にして砕石を行いました。鉗子やバスケット鉗子では傷もつかないほど硬い外殻でしたが、EHLでは容易に外殻にひびが入り、少しはがれたところをバスケット鉗子で小さく砕き回収しました。硬い外殻さえ壊すと、内部はコルク状の物質で容易に砕くことができました。とは言っても大きな石であり、処置具の出し入れ、砕いた胃石の回収などで治療時間は長時間にわたりました(2時間以上はかかった記憶があります)。EHLは胆道結石の治療で何度か使用経験がありましたが、胆道鏡下に比べると胃内視鏡下では視認性、操作性とも良好で、それほどストレスなく治療を行うことができましたが、内視鏡治療を長時間受ける患者さんはさぞかし大変だったと思います。治療後に患者さんは、「もう柿は食べません」とおっしゃっておりました。患者さんの自宅の庭に柿の木があるそうで、柿を好んで食べるおじいさんでしたが、治療のつらさもあったためでしょうか。もちろん鎮静も行いましたが。
 驚いたのはその数か月後です。何気なく雑誌を読んでいると、なんとコーラによる胃石溶解療法というものを見つけてしまったのです。3リッターのコーラで12時間以上をかけて洗浄したところ胃石が消失したという報告です。なぜコーラなんだ?という思いと、もっと早く知っていれば!との思いもあり、文献を集め、治療時間や治療費用の比較を含めて学会で報告しました。今では胃石治療の第一選択といってよいコーラ療法(その後の報告ではコーラだけで消失することはなく、外殻を柔らかくして機械的に砕いているのがほとんどです)ですが、当時報告例はほとんどなく、発表時、とくに医療費の比較の時点で会場がザワザワしたのを覚えています。なにしろ各種処置具(特に保険請求できないEHLプローブは破損しやすく複数本使用しました)だけで19万を超えた一方、150円/500mlとして、3Lのコーラなら1000円もかかりませんので、、、雲泥の差です。ちなみに入院治療の総点数は5万点を超えました。医療費削減の点からもコーラ療法が優れていると思います。話はそれますが、経営のことを全く考えずにたくさんの治療道具を使わせていただけた勤務医時代が懐かしいです。開業した今では、請求できない材料などは恐ろしくて使うことができません。当時の院長先生には感謝しています。話を元に戻します。もし再び胃石の患者さんがいらしたらコーラでの治療を実践したいと思っていますが、残念ながらその後は胃石にお目にかかっていません。
 果物ならいくらでも食べてよいと思っている方が意外と多くいるようです。先日も急激にHbA1cが悪化した糖尿病患者さんに尋ねたところ、ミカンが好きで1日15個くらい食べていると何事もないようにお話しされていました。柿が好物で大量摂取している方もいると思います。コーラ療法を知ってからは、柿をたくさん食べる習慣のある方には、コーラ飲用を勧めたりもします。最近、胃石に関してコーラはもう医薬品だ、などと言った声もありますが、よく考えると、様々な道具を使用して苦労しないと砕けない胃石を溶かしてしまうコーラという代物、なんか怖いと思うのは私だけでしょうか?
 次は、秋田組合総合病院(現秋田厚生医療センター)勤務時代から大変お世話になっている、クリニック八橋和田内科の和田勲先生にお願いしました。よろしくお願いします。
 
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