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<ペンリレー>

発行日2014/12/10
くらみつ内科クリニック  倉光 智之
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冬の飛行機
 
 2013年11月にC型肝炎の新たな治療薬が発売された。新薬の発売記念講演会は全国より多くの医師が集まるため土曜日の午後に大都市で開催されることが多い。東京で講演会が行われる場合、東京-秋田には、飛行機、新幹線、夜行バスと種々の交通手段があるため帰りの心配をすることは少ない。今回のC型肝炎治療薬の発売記念講演会は12月の札幌開催であった。当日、秋田は天気がよく、土曜の午前診療を終え秋田空港から約45分の飛行時間で千歳空港に着いた。時間通りに会場に着き発売記念講演会を拝聴した。秋田からは私を含め3人が参加しており、講演会終了後、3人で酒を飲みながらC型肝炎や秋田の医療の実情などについて熱く討論した。診療所は代わりの医師がいないために月曜日の朝まで必ず戻ってこなければならない。秋田行きの便は念には念を入れ9時過ぎの朝1便を予約していた。
 翌朝、7時前にホテルを出て、タクシーで札幌駅まで向かった。タクシーの運転手は“先日は大雪で飛行機が欠航になって大変でした。今日は大丈夫でしょう”と言っていた。札幌駅より快速エアポートに乗り千歳空港についた。昨夜一緒であったI先生は私と同じ便で、N先生は我々より1便遅い他社の便であった。千歳はタクシーの運転手が話したとおり天気がよく、全便予定通り飛んでいた。搭乗前に“秋田空港視界不良で着陸できない場合には羽田空港、もしくは千歳空港に引き返す場合があります”とのアナウンスが流れていたが、よく聞くアナウンスでありまったく気にしなかった。
 我々の飛行機は定時に離陸した。小さなジェット機は低空を飛ぶため山並みが非常にきれいに見えた。1時間弱で秋田空港上空に到達したが秋田空港に近づくと上空は厚い雲に覆われていた。着陸態勢に入り降下を開始したが、途中で急に再上昇した。機内アナウンスで、着陸態勢に入り降下を開始したが秋田空港滑走路が大雪で除雪作業が必要になったために一度上空に戻り、旋回して滑走路の除雪を待つとのことであった。1時間以上旋回しただろうか、除雪が終わり上空で旋回して待機している飛行機が順番に降りる。当飛行機は3番目とのアナウンスが流れた。その後順番待ちの間しばらく旋回していたが、再度機内アナウンスが流れた。秋田空港にまた雪が積もり再度滑走路の除雪が必要になったと、当機はこれ以上旋回すると燃料がなくなる可能性があるので千歳空港に引き返すと。機内では特別騒ぎはなかったが、乗客のほとんどはどうせ降りるなら千歳以外に降りてくれと思っていたに違いない。
 12時近くに朝旅立った千歳空港に着陸した。機内で、航空券の振り替えをするので○番カウンターに行ってくださいとの説明があった。誘導されるままに手続きカウンターに向かった。私は常日頃から、出張で何かあったらまず羽田に向かい羽田でリセットして秋田に帰ると心に決めていた。札幌より羽田便は全く問題なく飛んでいたために、カウンターで、札幌-羽田、羽田-秋田で航空券を手配してくれませんかとお願いした。ところが、秋田空港に今着陸できないために戻ってきているので秋田空港行きの航空券は発券できないとの返答であった。続けて“最終の秋田便にはまだ空きがあるので振り替え可能ですが欠航になる可能性もあります。13時台の仙台便には振り替え可能です“との説明であった。話の流れから仙台便以外選択の余地はなかった。秋田に住んでいると秋田新幹線があるために仙台空港には縁がない。I先生も同じ行動になった。そのとき偶然千歳空港で館内アナウンスが流れた。N先生が乗る11時過ぎの飛行機が秋田空港大雪のため出発遅延となっていたものであった。“秋田空港が視界不良で着陸できない場合には羽田空港、もしくは仙台空港に着陸します”と。そのアナウンスには千歳空港の名前はなかった。ちなみにN先生はその後問題なく秋田空港に着陸した。
 私とI先生は札幌-仙台行きの飛行機に乗り、16時頃に仙台空港に着いた。機内では朝の札幌-秋田行きで一緒であった客が多く乗っていた。仙台空港から仙台駅までどのくらい離れているのかわからず、I先生と一緒にタクシーで仙台駅に向かった。空港から駅までは思ったより離れており、電車を使うのが普通であったようだ。仙台駅に着いて秋田行きの新幹線の券を買おうとしたがすでに新幹線こまち(盛岡-秋田間)が完売状態であった。これは日頃新幹線に乗り慣れていないために駅に着いてからでないと券の買い方を知らないためである。慣れた方は携帯で新幹線の券を購入するため対応が迅速である。2年前の1月に東京が大雪で羽田が全便欠航になったときに東京駅で並んで新幹線の券を買い、新幹線の券は携帯で買えるようにしておかなければと心に決めたはずであったが、今回経験が生かされていなかった。新幹線の券を買う段階でI先生より“途中からタクシーに乗り高速道路を利用して帰るとすれば北上まで乗車券を買った方がいいでしょうか”との問いがあった。私は北上から秋田まで向かってくれるタクシーがいるのか疑問であったために盛岡まで行こうと進言した。更に盛岡から秋田までこの悪天候の中向かってくれるタクシーがいるのか不安で、新幹線の中から知り合いに電話をし、盛岡より秋田まで向かってくれるタクシーの予約をお願いした。そしてやっと盛岡到着、盛岡駅前はすでに真っ暗であった。
 予約したタクシーに乗り秋田に向かった。運転手さんに北上周りの高速で行った方がよいか仙岩峠を越えて国道で行ったほうがよいかルートの選択を任せた。運転手さんの“吹雪の高速は怖いので国道で行きましょう”の意見でルートが決まった。道中、運転手さんに“盛岡から秋田にタクシーをお願いすると行ってくれるものですか”と聞くと、“どのタクシーでも行ってくれると思いますよ”とのこと、更に“北上からでも大丈夫ですか”と聞くと、“全く問題ないと思う”とのことであった。明らかにI先生の提案通り北上で新幹線を降り、そこからタクシーに乗るべきであった。
 盛岡-秋田は通常2時間程の行程であるが雪のため車はかなり揺れた。しかし吹雪は思ったほどではなかった。秋田市に近くなったところで、体も限界に近づき、市街地の混雑を避け、協和インターから高速に乗りましょうと私が提案した。しかしこれは明らかに失敗であった。国道から協和インターまでの山道はかなりの距離があるが、ここがものすごい横殴りの吹雪でほとんど視界が無い状態であった。走った時間は10分少々であったろうか、前から向かってくる吹雪で道は見えず、1台の対向車のトラックはアップライトで向かって来て生きた心地がしなかった。運転手さんも同様のようで汗だくであった。運転手曰く、“横殴りは車高が低い車だから恐怖なんですよ。トラックのように高台から下を向いて運転しているとこのようには見えないためにこのような状況でも彼らは無謀に見える運転が出来るのですよ”とのことであった。真偽の程は定かではないがなるほどと納得した。協和インターより高速に乗るや吹雪は全くなくなり視界良好で路面は除雪されており別世界であった。最初から高速に乗っていればよかったと心の中で思ったが言葉には出せなかった。
 I先生を送り届けた後、自分の診療所に着いたときは夜の9時を過ぎていた。朝7時前に出発し、とても長い一日であった。運転手さんに丁重にお礼を言い、帰りはどこを帰りますかと聞くと間髪入れず高速に乗って帰りますとの返事であった。
 翌日、体は揺れていたが無事に診療を終えることが出来た。新聞には前日の飛行機の発着状況が載っていたが、秋田空港に着陸できず着陸地変更した便は私の乗った1便だけであった。あのとき上空で一緒に旋回した便もすべて無事に秋田空港に着陸していた。 
 飛行機による移動は快適である。しかし時としてサプライズがある。それもまた飛行機の楽しみなのかもしれない。
 次回は開業医でありながら国内外の学会でご活躍されておりいつも尊敬している、同じ秋田市医師会山王八橋班のはらだ小児科医院の原田健二先生にお願いしました。
 
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