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<ペンリレー>

発行日2014/03/10
石田皮ふ科医院  石田 晋之介
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『美味礼讃』から
 
 「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人であるか言い当ててみせよう。」
 19世紀の書、『美味礼讃1)』のアフォリスム(格言)の一文である。以前、テレビの料理の鉄人で司会の俳優さんが引用した言葉だそうだ。最近、N○Kのラジオを聴いていてその本の存在を知り読んでみた。
 美味礼讃の原題名は、味覚の生理学である。18世紀後半から19世紀初頭のフランスの食通、エッセイストのブリア=サヴァランが書いた名著である。原題は味覚の生理学となっているが、中身は味覚それだけに留まらず、料理、美食、肥満など多方面について述べられていて、まとまりがないような気がしないでもないが、その時代の様式や考えが見える。その中からいくつか面白そうなところをかいつまんで紹介してみようと思う。「」は本文からの引用である。
 初めは感覚や味覚、美味学などについて書いてあるが、その後の食物一般から。

チョコレートについて
 「快楽の杯を幾杯か飲みすぎたお方、眠って過ごすべき時間の大部分を仕事に費やされたお方、一時的に頭がぼんやりしなさった知識人の方、空気がじめじめして時のたつのが長くて耐えられないと思うご仁、固定観念に苦しめられ思考の自由を奪われたお方は、だれでも龍涎香入りチョコレートを半リットルたっぷり飲んでごらんなさい。」
 私はチョコレートが好きで毎日のように食べている。2月はバレンタインデーがあり、たくさん召し上がった方も多かったことだろう。約200年前の当時、チョコレートは飲み物だった。カカオの実を砂糖、肉桂と一緒に炒った混合物をお湯または水にとかして飲んでいたようだ。固形の物が発明されたのは1847年のことである。
 ネットのWikipediaで調べると龍涎香(りゅうぜんこう)あるいはアンバーグリス(英: Ambergris)とはマッコウクジラの腸内に発生する結石であり、香料の一種である。現在は商業捕鯨が禁止されたため、偶然によってしか入手できなくなっていて、残念ながら今は食べられない。龍涎香の構成成分の大部分はステロイドの一種であるコプロスタノールとトリテルぺンの一種であるアンブレインだそうだ。ステロイドと聞くといかにも効きそうである。

食事の眠り、夢に及ぼす影響
 静かに眠りを誘う食べ物は、
「牛乳が主になっている食物、ちさ類のすべて(ちさは、レタス)、飼鳥肉、まつばぼたん、オレンジの花、そしてレーネットというりんごを就寝直前に食べると良い。」
 ネットで私が検索した結果では、乳製品には睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を促すトリプトファンが含まれている。レタスにはラクッコピコリンという物質が多く含まれていて神経を鎮めたり眠気を誘う効果がある。ちなみにトリプトファンはバナナにも豊富で、味噌、サクランボにはメラトニンを分泌させる物質が多く含まれている。またアーモンドには筋肉の緊張を解きほぐし眠りを誘うマグネシウムが含まれている2)3)。詳しくは睡眠の専門家に聞いて頂くとして、一度、自分で試してみるのも良いかもしれない。
また、夢を見させる食べ物として
「軽度の刺激性食物はすべて夢を見させる。黒い肉類、鳩の肉、鴨の肉、猟鳥獣肉、ことに兎の肉。それからアスパラガス、セロリ、トリュッフ、ヴァニラの香りを付けた砂糖菓子も夢を見させる。」 さて本当かどうはわからない。

肥満について
 気になる肥満の原因として以下を挙げている。
「第一は、各人生まれつきの素質である。」
そのしるしはその顔つきの上に現れているそうで、100人の肥満者のうち90人は顔の寸がつまっていて目が丸く鼻が低いとある。実際、周りを見るとそんな気がしてきた。
「第二の原因は、人間が日常の糧の基礎にしている澱粉類メリケン粉等の中にある。」
動物でも肉食獣は決して肥満することがない、草食獣もそんなに太らない。ところがこれにじゃがいもや穀類や諸種の粉類を与えだすとたちまち太るらしい。澱粉類が原因とは、今で言う低炭水化物ダイエットにつながる話である。生化学では摂取した脂肪は脂肪としてたまり、炭水化物はグリコーゲンから、蛋白質もアミノ酸を経てグリコーゲンの一部にくり入れられてやがて脂肪の形で沈着する。脂肪をあまり多く取らない日本人にあっては、ふとる原因は多量の炭水化物、つまりごはん、パン、芋、菓子ということになる4)。
「睡眠の延長と運動不足とは、互いに持ちつもたれつして肥満症の一つの原因になる。」
寝坊な人たちは、少しでも疲労するようなことは何一つしたがらないとあるが、当たっているかも。
「肥満症の最後の原因は、食べすぎ、飲みすぎである。」
19世紀初頭にも食べすぎ、飲みすぎに苦労していたとは驚きである。
 肥満症の治療は
「食事を控えめにすること、睡眠を節すること、徒歩または騎馬で運動をすること。」
食事を控えることは今も同じである。寝ている時間が短ければ動く時間が増えるが、睡眠を減らすことは、健康面からか現在では取りざたされていない。騎馬で運動とは、時代が感じられる。また、食欲、睡眠を抑え、運動するのは、現実はなかなか難しいので、
「医療の効果で第一は食事療法、粉類澱粉食を多少とも節制しさえすれば必ず肥満を防止することができる。」とのことである。

ちなみに現代で肥満を防ぐには
 専門の方には、釈迦に説法だが、厚生労働省のホームページ5)によると、まずは標準体重と活動量から必要なカロリーを計算して、1日の適正なカロリー量を知ること。カロリーを取りすぎている人でよくあることは、食べる量が多すぎるタイプ、家族全員食べる量が多く当たり前と思っている。間食やお酒のカロリーを計算に入れていないタイプがある。   
 肥満の2大要因は、食べすぎ(カロリーのとりすぎ)と運動不足である。最近10年ではカロリー摂取量は横ばいだが肥満の人は増加していて運動不足の影響が大きい。減量や肥満予防に運動がすすめられるのは、運動そのものによるエネルギー消費に加えて、筋肉がつき、基礎代謝量が増え、体脂肪を燃えやすくするという理由からだ。

最後にやせすぎについて
 「女にとってやせていることは、大きな不幸である。女にとって美こそ生命以上であり、それは特にからだの丸み、その優しい曲線にあるのだから。」
現代女性の考えとは大きく食い違っていると思うが、殿方は、うなずかれる人もいるのではないかと思う。やはり標準体重がよいのでは。
 次のバトンは、吉成皮膚科クリニックの 吉成 力先生 にお願いしました。

 参考文献
1)サヴァラン,ブリア(1967)『美味礼讃(上下)』(関根秀雄・戸部松実訳)岩波書店.
2)“体に優しい睡眠法”,<http://www.yasashi-nemuri.com/i-food/>2014年2月7日アクセス.
3)“眠れない夜にぴったり!睡眠を促す食べ物ベスト10”
<http://youpouch.com/2011/01/04/092343 />2014年2月7日アクセス.
4)秋山房雄(1983)「肥満の生化学」pp.120-121『やさしい病態生理~主要症状のしくみ~』南山堂.
5)“肥満ホームページへようこそ”
<http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/>2014年2日11日アクセス.
 
 ペンリレー <『美味礼讃』から> から