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<ペンリレー>

発行日2012/10/10
菅原内科クリニック   菅原 真砂子
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マイ・ウオーキング
 
                      
私の仕事場から1ブロック東側に草生津川が流れています。外旭川方面から寺内、八橋地区を下り山王、臨海方面に向かっています。この両岸の土手を通勤、通学する人は多く、八橋地区の一部の土手沿いには広い新しい道路もできました。春の水仙、秋のコスモスロードとしてもちょっと有名になっている所です。数年前から、この地域をウオーキングすることがとても楽しみな私の生活の一部になりました。
川岸は背の低い木や草が茫々として、川には長老級の鯉や亀などが棲んでいるらしく大きな水の音が聞こえ、鴨の一群もいて手付かずの自然が残っています。一部には桜の樹のトンネルもありますが、近くには高層建築物がないので、土手からは全方向の広い空が見渡せ、早朝や夕暮れ時の空は見事です。犬の散歩、自転車通勤、通学、ランニングする人たちと行き交い、真冬は歩けませんが、雪解けを待ってバッケ、菜の花、あじさい・・・季節の花が次々に咲き、とくに桜とコスモスの季節はここを通る人にとって格別な場所になります。
7-8年前の杖がないと歩けなかった頃、信号で停車しているときなど人が歩く姿の美しさに見とれたことがよくありました。今は杖がなくても歩けることが嬉しく、「歩く」ことが関心事になりました。人工股関節治療専門医の啓発本によると、はじめは①かかとからの着地 ②ムリなく背筋を伸ばす、この2点だけを意識してこの動きを身体に覚えさせることが大事とありました。このゆっくり歩きトレーニングからはじめ、体調のいいときは歩幅を大きくしたりスピードを上げたり、自分に合ったグッド歩行を試みています。このような時に、心に湧き上がってくる詩があります。
「ありがとう、わたしの眼よ すでに老いたる額の下でなおも澄んだまま はるかにきらめく光を眺めうるを。ありがとう、わたしのからだよ 疾風やそよ風にふれて なおきりりとしまり、おののきうるを。」(ヴェルアーラン“よろこび”より)
変形性股関節症の発症は40代の終わり、海外旅行中、ザルツブルグの街を一人で歩きまわっているときに突然の激痛で歩けなくなりました。医師からは水中運動と杖歩行を勧められ経過観察を続けていました。杖歩行では痛みもなくどこにでも歩いていけるので何も不自由はありませんでしたが、だんだんと“負の作用”が積もってくるのを感じ7年前に人工股関節置換手術をうけました。術後経過はとても順調で、まもなく杖も必要なくなり思わず走り出したいほどになりました。その数年前からスイミングを始めていたのが良かったと思います。それまで泳げなかった自分はスイミングスクールに通い始めて水中運動の楽しさにとりつかれました。ベテランのコーチは中高年のレディーズに対して、美しく泳ぐことに力点をおいて指導してくれました。今はスクールはやめて時々泳ぎに行っていますが、水中には地上で味わえない別世界があります。初めの頃は“魚になったみたい”な気分でしたが、最近は“人間でなくなっていくような?”気分です。泳げるようになったことを股関節に感謝しています。
爽やかな朝の土手で、後ろからタッタッと駆け足が聞こえ、「オハヨ!」と元気よく駆け抜けていく常連男性がいます。ヘビースモーカーで循環器の困った患者さんだった人が最近禁煙してウオーキングをはじめました。会うといつもこぼれるような笑顔で挨拶を交わしたときは嬉しさがこみ上げてきます。また歩き始めに思い出す友もいます。思い心配疾患をもっている友は、毎年地方紙に載るコスモスロードの写真を見ると手紙を書いてくれます。秋の陽射しを浴び、風にゆれるコルモスの花の中をどんなに歩きたいだろうか。この友の心を感じながら歩こうと思ったりします。
私のウオーキングは日々の運動不足をわずかに補う程度のもので、疲れているときは身体が重くグッド歩行どころではありませんが、仕事を終えた後の夕暮れ、刻々と変わりゆく大きな空とやわらかい風につつまれながら夕闇におおわれていく時間帯が一番好きです。おおいなる力に守られて今日のいのちがあったことを思います。
最後に前掲の詩“よろこび”の後半部分を写させていただきます。
「すべてのものの中にわたしは在る わたしをとりまき わたしにしみわたるすべてのなかに。 厚き芝生よ かそけき子径よ 樫の木々の茂みよ かげりなき透明な水よ あなたがたはわたしの記憶であり わたし自身となる。
どんな災いが君を餌食にしようとも 思え ある日 ある至高な瞬間に この甘きおどろくべき喜びを 心おどらせあじわいたるを。 君の魂が君の眼にまぼろしをみせ 君の存在を万物のなかにとけこませ このたぐいなき日、この至上の時に 君を神々に似たものとなしたるを。」 (神谷美恵子著「生きがいについて」より)
リレーのバトンは敬愛する本間医院の本間 真紀子先生にお渡ししました。
 
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