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<ペンリレー>

発行日2001/09/10
御所野整形外科  黒田 利樹
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プロ(?)ボクサー
 
 20年以上前のことです。大学時代にボクシングのプロライセンスを取得しました。テレビでボクシングをやるのは世界タイトルマッチだけです。それは頂点です。頂点があれば底辺があります。
 小・中・高はバスケットをしていました。高校のとき膝を傷めてバスケをできなくなりひどく落ち込みました。筑波大学入学後何かすることがないかと考え(医学の勉強以外で)、ボクシングを思いつきました。バスケではもともとよい選手でなく、おまけに膝の故障でついぞ公式戦に出ることがなかったので、一度は桧舞台に立ちたいという思いがありました。やったといえるようなことを一つ成し遂げたい。“プロ”ボクシングならその証になると思ったのです。
 で、ボクシングってどこでやるの? インターネットなどない時代です。ボクシングの本の巻末にジムの住所を見つけ、交番で尋ねたりしてたどり着きました。ジムの会長にも大学の友達にもプロになりたいとは言いませんでした。
私がジムに入門したとき、ジムにはプロボクサーが3人いました。最高でも日本ランキングに入る選手はいませんでした。いっしょに練習していて、ただプロになるだけなら遠い世界ではないと感じました。もちろん私よりずっと上でしたけど。
 私が習ったパンチは、ジャブ(左ストレート)、右ストレート、左フックの3つだけです。それにフットワーク、ディフェンスを加えてシャドーボクシングをします。シャドーはひとりで実戦をイメージしながら動いてパンチを出す練習です。3つのパンチでも多数のコンビネーションができます。ひたすらからだに覚えこませます。
 そのほかに基礎体力トレーニングやサンドバッグをやり、朝のロードワークもします。基本ができるとスパーリングという実戦練習をします。ヘッドギアと16オンスの大きなグローブをつけるとはいえ、殴り合いのケンカをしたことはないので正直怖いです。試合をするという目標がなければする必要のないことです。
 ストイックな感じになってしまいましたが、友達と二日酔いになるくらい飲むこともよくありましたし、また、「(解剖)実習で遅くなるので練習を休ませてください」みたいな情けない電話をジムに入れたりもしました。学業のほうもかなり悪いほうでした。
 ジム通いが2年を超えたとき、会長が「黒田、国体予選出てみないか。」と言いました。そのときです。これまで秘めてきた思いを口にしました。「おれ、プロになりたいです。」会長が何と言ったか覚えていませんが、驚くふうではありませんでした。
 4年生のときプロテストを受けました。プロテストは筆記試験とテスト生同士のスパーリングです。筆記試験はルールなどに関するごく簡単なものです。スパーリングの相手はケンカなら自分より強そうに見えましたが、スパーリングでは私が圧倒したので合格を確信しました。
 デビュー戦は夏休み明け、地元土浦で行われ、級友たちの応援もありました。プロのリング、桧舞台です。ヘッドギアなし、8オンスの小さなグローブ。でもスパーリングとは違い、恐怖心よりも緊張感が先です。1ラウンドKO勝ち。当初の目標を最高の形で達成できました。
 1試合だけではプロとして恥ずかしいと思ったので、また試合をすることにしました。後楽園ホールでの試合を3月に組んでいただけました。春休み、試合をするにはよい時期です。が、重大な問題がありました。9つある履修科目のうち7つが及第点に達していませんでした。学年末試験で挽回しなければ留年です。もっと勉強しておくべきだったと後悔しましたが後の祭りです。会長に泣きを入れて試験前の1週間ジムでの練習を休ませてもらいました。ロードワークと基礎トレーニングだけは自宅で続けました。試験終了後、試合までは2週間くらいでした。スパーリングでは練習不足を痛感しました。後楽園ホールはボクシングのメッカともいえる会場です。最高の舞台でしたが、試合は第2ラウンドにダウンを取られ、その後追い上げたものの引き分けに終わりました。
 5年生から臨床実習が始まり、練習もままなりません。1年足らずのプロボクサー生活を終えました。プロというのに憚りの念もあります。素人がちょっとだけプロの世界を垣間見てきただけです。プロライセンスは、それを取ったからプロなのではなく、プロになることを許された証でした。医師免許もそうです。医師には様々なプロの形があります。それぞれにプロになる努力、プロであり続ける努力が必要です。
 整形外科に入局後はプロのsurgeonたらんことを目標にしていました。今は開業医です。手術はしないけれど、迅速に多くの患者さんによい医療を提供することが使命です。経営や管理も職務です。今はこの道のプロであり続けたいと思っています。
 次回は「はしづめクリニック」の橋爪隆弘先生にお願いいたしました。
 
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