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<ペンリレー>

発行日2011/05/10
土崎病院  高橋 薫
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日本経済のゆくえ
 
 医療もその第一線からは退こうかという年になって急に医療は国家の経済財政事情と密接に関わっている事を意識する様になった。日本が高度経済成長を続けていた昭和48年田中角栄の時代には老人医療費の無料化という政策すら取られていた(現在から見れば夢のような話である)、それがバブル経済が崩壊し経済成長が止まっている昨今では後期高齢者医療制度の導入など、いかにして高齢者の医療費を抑えようかと知恵を絞る時代に変わっている。経済が成長し続けGDPが拡大を続ける限りは医療保険料率や税率を上げずとも医療費の拡大が吸収出来ていた訳である。戦後の廃嘘から奇跡的な経済復興を遂げ経済大国と世界からもてはやされた日本の経済も1990年のバブル崩壊後は成長が頓挫し失われた10年とも20年ともいわれる経済の停滞にあえいでいる、日本の経済は一体どうなってしまったのだろうか、にわか勉強の恥を顧みず日本の将来を自分なりに心配してみた。経済学とは「いかにして経済を成長させ人々により多くの幸をもたらすか」を研究する学問との側面を持っている。経済学者にとって1929年米国ウォール街での株価暴落に端を発する世界恐慌の原因や経過の分析は格好の研究材料であった様である。中学や高校までの歴史教科書であれば恐慌に悩む米国経済はルーズベルト大統領によるニューディール政策によって救われた事になっている。実際にはニューディール政策程度の国家財政出動では米国経済は再生出来ず、米国が第二次世界大戦に参戦し、政府が戦争を理由に際限のない財政支出を続けた事によって米国経済は飛躍的に拡大成長した様である。(この意味でルーズベルトは日本の真珠湾奇襲を待ち望んでいたともされている)。この世界恐慌に関する分析とそれ以前からあった経済理論との組み合わせから戦後大きく2つの経済学の潮流が生まれ議論を戦わせる事となった。一つはケインズ流経済学であり、もう一つは新自由主義とも呼ばれるマネタリズム(シカゴ学派)の潮流である。ケインズは戦前から活躍していた英国の経済学者で、その著書は経済学に興味を持つ人ならまず最初に手にする物の様であり今日でもその人気は衰えていない様だ。物の価格を決める需要と供給の関係において、供給は需要による制約を受けるため、いかに生産性が向上してもそれだけでは経済は成長出来ず、不況時には政府が財政支出を拡大し減税や金融緩和によって有効需要を創出してやる必要があり、好況時には政府は財政支出を切りつめ増税や金融の引き締めによって経済の過熱をコントロールしてやる必要がある、とするものである。バブル崩壊後の長期デフレに悩む日本にも当てはまる部分があり、発展途上国などでも常套的に取られてきた経済成長政策の基本である。もう一つの潮流は1970年代オイルショック時の原油価格の高騰に起因するケインズ流経済学では解決のつかない世界不況下に生まれた考え方であり、政府による需要管理政策は経済成長を促す手段としては有効でなく主に金融政策によって物価の調整を図り、後は市場にまかせる事が最も経済が自由に成長出来る環境を作り出す、とする主張である。新自由主義とも呼ばれレーガン、サッチャー時代の経済政策を支える理論としてもてはやされた。端的に小さな政府を目指す市場原理主義である。日本のバブル経済が弾けた1990年は丁度ソビエト連邦が崩壊した年でもあり、資本主義か共産主義かの争いには終止符が打たれ、唯一の超大国となった米国は遅れていた東欧諸国経済が資本主義化する際にも指導的立場を果たす事が求められ、前述の小さな政府、自由市場、規制緩和、民営化といった新自由主義(市場原理主義)的原則が世界規模で推し進められた、経済のグローバリズムである。そして気がついてみると、世界的規模での分業、グローバル経済は世界全体を豊かにするはずであったが実際には富めるものはより豊かに、貧困層はそのままの状態に留め置かれるという格差社会をもたらし、格差は拡大、固定化される方向へと進んでしまった。ここでもう一度ケインズ的経済学が見直される事になるのである。長期デフレに悩む日本にとっては需要の創出こそが急務である。少子高齢化や官僚と経済界のもたれ合いによる既得権(規制)の温存はこれを拒む要因となっている様である。昭和日本の宰相、高橋是清は有効需要創出のため軍備の拡張を行った。ある程度経済回復が軌道に乗った所で軍事支出を制限した所、軍部の恨みを買い暗殺された。今回の東日本大震災で日本はただでさえ停滞している経済に更に大きなダメージを受ける事となってしまった。日本の未来を担う若者の所得が低く、結婚、出産率も低く、若者が希望を失っているのであれば日本の未来は暗い。日本を導くリーダーには是非とも経済に明るい人であって欲しい。

 
 ペンリレー <日本経済のゆくえ> から