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<ペンリレー>

発行日2010/04/10
かがや内科医院  加賀谷 学
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TOTO製の棚
 
 わたしの知人の話。小学校の頃、家族と住んでいた家を新築してもらったのだと。
「もともと小売店をやっていたので店舗付住宅に慣れている大工さんにお願いしたんだけど…。」とはなしはじめた。大工さんは彼女の父とは仲がよく、張り切って建物の構造のことやら、間取りのことやら父と相談しながら楽しそうに仕事をすすめいていた。父も建物が徐々に完成に近づいていくのを楽しそうに見ていたそうな。
 さてほぼ完成も近くなったある日「あれえー、便所の水槽の蓋、どこさいったべか?」大工さんが、あっちこっち探し回っていた。新築の家のトイレは水洗式にして三角柱型の貯水タンクを設置することにしていた。その貯水タンクの上の陶器製の白い蓋が無いというのである。当然「大工さんが蓋を間違って割ったのではないか。」という話が出た。しかし「いやいやそんなはずはない。落とすなどして割ればすぐわかるはずだ。」と大工さん。「では居間の縁の下にあるのではないか。」と縁の下を覗き込んだりしてみたが結局その在り処はわからなかった。やがて迫加注文した蓋が新たに貯水タンクの上に載せられた頃には、みんなの頭から“トイレ蓋行方不明事件”はすっかり忘れ去られていた。
 彼女の家には代々ねこちゃんがいた。多くのねこにお好みの場所があるように、彼女が中学校に通う頃飼っていたねこのタマは居間が好きだった。しかし冬の寒い季節だけは居間は冷え切ってしまうことが多いため、そのかわり浴室のシャンプーなどを載せる棚の下の隙間が冬期間の定位置となった。その壁裏にボイラーがあったため冬季でも丁度いい暖かさになっていたようだ。ある日、そのタマがどこに行ったかわからなくなった。食事時には自分のご飯容器の周りにいるのが常であったのだが、その日に限ってどこを探しても見つからない。厳冬の冬、凍死でもしないかと心配しながら、家族総出でしばらく家の中や家の周辺をさがした。
 と「おーい、あったどーーー!」というお父さんの声が家中に響き渡った。お父さんはタマの気配がないかと浴室の白い棚の下をのぞきこもうとしたその瞬間、その棚の横に “TOTO”という文字を発見したのだった。そこには5年以上前に行方不明となったトイレの貯水槽のフタが浴室の壁にまさしく浴室の棚として鎮座していたのである。
 彼女いわく。「あの時は、家族みんなびっくりしたなあ。さっそく当時家を建ててくれた大工さんにも知らせたけど腰を抜かすほどびっくりしていたっけ。あれえ、なんで便所の道具が棚になってしまったんだべかあ、って。トイレの部品を棚と間違えるなんて、すっごいよね。」たしかにそう思う。しかしなんで浴室の棚がTOTOであることを5年以上も気づかなかったのだろう。それも大きな謎だと思う。世の中いろんなことがあるもんだ。タマは間もなく何事も無かったように入り口のシャッターの隙間をすり抜けて家に帰ってきたということだ。
さて彼女の家のひとびとは、そのあともしばらくTOTO製のおしゃれな白い棚を浴室に据え付けたまま、花などを飾るなどしながら、使っていたのだそうだ。
 「それがわかったら、新しい棚にかえればよかったんでないの?TOTOって違和感なかったの?」一緒に聞いていた友人のひとりが口を挟んだ。彼女いわく「それまでしばらく使っていたし、まったく違和感なくて。TOTO製の白い棚って陶器製だから汚れがつかないし、使い勝手がよかったので変えないで使っていたんですよ。」と。これを聞いて彼女の家族に乾杯と思ったものだ。
 そういえば、かつてイギリスにTOTOというグループがいたなあ。TOTO製のトイレ製品だろうが、IKEA製の棚であろうがそんなことはどうでもいい。誰がなんと言おうと自分がいいと思ったものがいい。その感覚が大事なんだよなあ。
 
 ペンリレー <TOTO製の棚> から