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<ペンリレー>

発行日2009/11/10
あきた健康管理センター  飯塚 政弘
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蝉しぐれの思い出
 
 秋田大学医学部9期生の第三走者として、9期生の貴公子”黒川先生よりバトンを受け取ったものの、このような文章をほとんど書いたことのないため一体何を書けばよいのか悩んでしまいました。そんな折、学会で東京に行き久しぶりに喧しいほどの蝉の声を聞きました。もう9月だというのに日中はミンミンゼミの賑やかな声が、そして夕方近くなるとツクツクボウシの声がここちよく響き、そしてゆく夏の寂しさをなんとなく感じました。夏という言葉を聞くと、この年齢になっても何故か心が躍ります。それは、私にとって夏という言葉の背後には、夏休み、夏祭り、花火大会、海水浴、そして蝉とりといった幼い日の楽しい思い出が隠れているからだと思います。中でも蝉には特別な思いがあります。 
 そこで今回は、読者の皆様の興味は無視させていただき、私にとっての蝉について総括してみたいと思いペンを執りました。
 静岡県のほぼ中央に位置する焼津市はかつて遠洋漁業の根拠地ともいわれた町で、私が幼少期を過ごした故郷です。当時は多くの子供たちがそうであったように、私も近所の幅広い年齢層の子供たちと遊んでいました。今考えると奇異ではありますが、下は幼稚園児から上は中学生(時には高校生も)までが一緒に遊んでいたのです。そんなわけで、私はわずか6~7歳にしてほとんどの遊び(*子供の遊び)を経験したように思います。そして夏の遊びといえば、やはり蝉とりでした。静岡県は秋田に比べ気候が温暖なため多くの蝉がみられます。小さいほうより、ニイニイゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、そして最も大きいクマゼミです。この中でニイニイゼミとアブラゼミは羽が薄茶色、茶色ですが、その他の蝉では透けています。私にとって、後者の羽が透明色の蝉がより魅力的で貴重なものでした。
 今でもこれらの蝉であれば一瞬で蝉の名前を当てることができます。この能力(?)は、もしかしたら消化器の画像診断にも役立っているのかもしれないと本気で思うこともあります。実際の蝉とりはこんな感じでした。蝉の声が聞こえると、近くの木を注意深く見渡します(当時私の視力は何と2.0もありました)。発見すると気づかれないよう静かに近づきます。網をそろそろと近づけていき、蝉が逃げる方向も予測しながらすばやく一瞬のうちに網の中へ捕らえます。蝉が木の高い場所にいる場合には木登りも辞さないこともありました。ただし、トリモチなど蝉を傷つけるものは決して使わないというのが私のポリシーでした。蝉とりは次第にエスカレートしていき、私は蝉が脱皮する前の幼虫を捕まることにも夢中になっていきました。ご存知のように蝉の幼虫は土の中いるため、焼津では“穴ゼミ”と呼んでいました。穴ゼミとりはこんな感じでした。まだ暗くなりきらない夕方、近所の神社に行きます。地面をじっと見つめて歩きます。かすかな小さい穴を見つけたらしめたものです。指で穴の周囲を軽く押すと穴は大きくなり、この時点で蝉の幼虫がいることをほぼ確信します。小指を穴の中に入れると、何かが指を挟んできます。間違いなく穴ゼミです。そのまま指を引き上げるか、または松葉を穴に入れ松葉を掴んだところをそっと引き上げます。捕った蝉の幼虫は家に持って帰り、ひまわりなどの茎に登らせるか、家のカーテンに登らせじっと脱皮するのを待ちます。ある日、蝉の幼虫の背中が割れてから時間がたっても中々全身が出てこないので、脱皮を手伝ってあげようとして蝉を死なせてしまったことがありました。幼少の頃の苦い思い出ですが、今思い出しても後悔の念が残ります。
 子ども時代の夏休みはこのように蝉とともに毎日を過ごしました。夜は、花火、夏祭り、盆踊りなどに出かけ、今思えば夢のような日々でした。ある夏の夜、こんな思い出話を妻に語りました。すると妻は「本当に男の子らしい楽しそうな少年時代でうらやましい」と言いました。さらに「こんな楽しい経験をしてきたから、大変な事があっても楽観的でいられるのかも」と続けました。確かにそれは正しい分析かもしれないと私は思いました。その一方、妻は「たくさんの蝉の殺生をしてきたのだから、畳の上でちゃんと死ねないかも・・・」とも言います。私もそれもそうかなと不安になりましたが、でも自分は蝉が大好きだったし、このような体験を通して生命の大切さを知ったのだし、それにクモの巣にかかっていた蝉を助けたことだってあるし・・・などと言い訳を考えたりもするのでした。
 先日、ようやくとれた夏休みに妻と山形の温泉地に行きました。夕方散歩をしていると、すぐ近くでミンミンゼミの鳴き声が聞こえてきました。子供のころからの習性でついつい蝉を探してしまいました。するとすぐ近くに蝉を発見しました。下から見上げると、透明の羽は太陽の逆光をあびて黒っぽく見え、まさに子供の頃みたミンミンゼミです。私は思わず横にいた妻に「ほら、あそこにミンミンゼミがいるよ!」と叫んでいました。普段から虫嫌いで蝉のことを“大きい虫”といって嫌がっている妻も、「本当だ、蝉が鳴いている姿は生まれて初めて見た」と少し感動している様子でした。妻が初めて蝉の魅力を共感してくれたうれしい瞬間でした。いつの日か、昔のように思いきり、そして真剣に蝉とりをしてみたいと思っています(もちろん、無駄な殺生はせず捕まえた蝉は逃がします!)。多分、この計画には妻は付き合ってくれないと思いますが・・・。
 ここまで読んでくれた皆様、最後まで私の自己満足の文章につきあっていただきありがとうございました。次回は私が大学病院第一内科入局以来ずっとお世話になっています中通総合病院の千葉満郎先生にバトンタッチします。先生とは大学病院時代に職員対抗リレーで一緒に走った懐かしい経験もあります。先生の熱いお話に大いに期待しています。

 
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