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<ペンリレー>

発行日2006/08/10
秋田組合総合病院  桑原直行
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リングドクター
 
 渡邊克夫先生よりバトンを受け取ったはいいのですが、さて何を書けばいいのか迷ってしまいます。御題がないのは私のような者には非常につらいのですが、来年はわか杉国体なのでその関連で書くこととします。

 日本体育協会公認スポーツドクターとなって、4年目になった。専ら、アマチュアボクシングに関わっているが、昨年は日本フェザー級タイトルマッチのリングドクターも経験することができた。チャンピオン榎洋之選手は金足農業高校出身で3度目の防衛戦を地元で行ったわけだ。
 9月21日試合前日、3回戦クラスも含め総勢14人ほどメディカルチェックを行ったが、さすがプロの体は違う。極限まで絞り込まれた肉体美はそれだけで美しい。しかし、メディカルチェックを進めていくと何人かの選手に眼振がみられた。毎試合、何度となく頭部外傷となっているわけだから脳に異常があってもおかしくはない。プロボクシング協会の人とも話し合ったが、セコンドと審判が細心の注意を払うことでOKとした。アマチュアであればメディカルチェックで失格となるであろうに。要チェック選手として名前を覚えた。試合中何かあれば、すぐに止めなければならないからだ。幸い、榎チャンピオンには問題はなかった。
 9月22日満員の会場は、試合前から興奮の坩堝だ。けたたましいライトと音楽、次第に心拍数も上がり、熱くなってきた。あ、今日はリングドクターであった。冷静に、冷静にと心で唱えたが、K1やプライドを興奮しながらTVにかじり付いて見ている自分は隠せない。
 しかし、試合が始まると直ぐに青ざめることとなった。実際の試合をリングドクターとして見ていると「もう勘弁してくれ!」と言う感じである。「そこだ、行け一」という気持ちも少しはあるが・・・。
 アマチュアボクシングの場合は、かなりの有効打が入るとレフェリーがストップしカウントをとる。余程のことがない限りノックダウンはない。しかし、プロは当然相手を倒しに来るのである。レフェリーも簡単に止めはしない。右フックが入って朦朧としているところに容赦なく左、右と次々にパンチを浴びせ、そしてフィニッシュブローだ。
 日常の脳神経外科で言えば、酔っぱらってフラフラして左顔面から左側頭部を柱に強打しよろけたところで、運悪く階段があったため転落してしまい、何度となく頭部を打った後、床に顔面を強打してしまった場面を間近で眺めているようなものだ。ノックアウトされた選手をチェックに秋田大学脳神経外科菅原卓講師がリングに颯爽と上がり、素早くチェック。今のところ異常なし。
プロの場合、アマチュアボクシングと違い、試合後にも医務室でメディカルチェックがある。KOされた選手も日付、場所、試合経過(何ラウンドに倒されたか)などの質問に正確に答える。瞳孔異常はないし、麻痺もない。一安心である。眼振のあった選手も、特に問題なく試合を消化してくれた。
 メインイベントは榎チャンピオンのタイトルマッチだ。プロの試合のリングドクターを引き受けてから多少勉強していたのだが、不安は募るばかりであった。何しろ、プロの場合は流血戦が多く、傷口によってはドクターストップを宣言しなければならない。もしも、チャンピオンが、眼瞼裂創を負い出血が止まらないなんて事になったらどうしよう。私がストップかけることで、会場全員を敵に回すのではないか、生きて帰れるのだろうかなんて考えてしまった。 
 心のよりどころは、あるリングドクターのお話である。彼は、キックボクシング系の試合で流血した選手をドクターストップとし、選手やセコンドに恨まれ、激しい口調で批判された。しかし、その後病院での精密検査でかなり重症であったことがわかり、後に感謝されたそうである。
 試合は淡々と進んだ。榎チャンピオンは足の怪我のためか今ひとつ動きが悪い。決定的なチャンスは無く、判定で防衛した。地元防衛にほっとしている以上に、私の想定した悪夢が起きずに済み、胸を撫で下ろした。
その後、榎チャンピオンは日本フェザー級タイトルを返上。今年1月21日に東洋太平洋フェザー級タイトルマッチで、チャンピオンのデンタクシン・スーンギラーノーイナイ(タイ)を2R目にボディヘのフックで沈め、東洋太平洋フェザー級新チャンピオンとなった。9月にはWBC世界ランキング現在8位のナデル・フセイン(豪州)との防衛戦が決まったようで、これで防衛すれば、WBC世界フェザー級王者に挑戦できる。しかし、現チャンピオンは日本の越本隆志である。日本人同士の対戦になるのか楽しみである。 

 さて、プロの試合とは違い、アマチュアボクシングの世界では兎に角、怪我をさせないことが重要ポイントです。試合前のメディカルチェック、試合中の早めのストップが大切となります。そのため、アマチュアボクシングではリングドクター及びメディカルチェックのドクターがいなければ、試合が成立しません。
 今年11月には男鹿市で全日本選手権大会、来年10月には、わか杉国体があります。試合をこなすためには、毎日、リングドクターおよび救護ドクターで3人と検診ドクター5人が必要なのです。大会期間中のドクター延べ人数は40人近くになります。医師会そして諸先生方の御協力無くして大会は成立いたしませんので、宜しくお願い申し上げます。また、格闘技に興味のある先生、男鹿の温泉に興味のある先生、是非、御一報下さい。
 一緒にボクシング大会そしてわか杉国体を成功させましょう。
 次は、緑ヶ丘病院の早川和夫先生にお願いします。

 
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