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<ペンリレー>

発行日2006/05/10
秋田メモリアルクリニック  渡邉克夫
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先生の御家族なら、先生はどうなさいますか?
 
 長年医業を生業としていれば一度や二度は患者、家族の方に訊かれたことがある言葉ではないでしょうか?あまり問いかけられて嬉しい言葉ではないと思います。しかし生死を分ける治療の選択に困ったとき、一度は決めた治療方法に不安が生じたとき、医療に精通していない一般の方であれば、「医師が自分の家族に選択する治療が最善である」という判断が正しいことかどうかは別なこととして、自然に問いかけたくなる言葉なのかもしれません。
 最近、某国営放送の医療関連番組を拝聴しました。内容が自分の専門分野に関連しているため、ゴールデンタイムの娘とのチャンネル争いを制してTV前を陣取りました。内容は一般人にも判りやすい説明で、また充分な検証の元に構成されており、ちゃらちゃらしたお昼の健康バラエティー番組とは大違い。これなら納得、ガッテンと言いたいところでしたが、最後に出てきたのが表題の言葉です。ある病気の治療について2種類の対処方法があります。ひとつは外科的治療を受けることで病気が根治できますが手術の合併症もありえます。もうひとつは経過観察することでいつ発病するかわかりませんが手術による不要なリスクは負いません。司会者が「素人には判断が難しいですよねえ?」するとその分野を代表する専門医師が「難しいですね、困ったときは、主治医の先生に御家族なら先生はどうなさいますか?と聞いてみるといいですね」とおっしゃるではないですか。いま流行りのモヒカン頭の女漫才師風に言えば、「ハァ~、先生の御家族なら先生はどうなさいますかだってえ、それじゃいろいろ選択肢を見せて、最終的にはAという治療方法を患者に勧めますって言っておいてから、御家族ならどうしますか?って聞かれたら、私はBにしますねえ、なんてしゃあしゃあ言う医者がどこの世界にいるんかよ、オイ、ゴォラァ、カンカンカーン」てなとこです。
 私みたいな町医者であっても外来はある種の戦場です。100人来て100人ともかすり傷のことが大半ですが、ときには命にかかわる病気を抱えてくる患者さんが隠れています。注意深く診て、通常と異なる随伴症状、経過を示す症例には可能な検査をして、自分の専門外に及ぶ場合は紹介して、を原則としています。そして大将クラスの病気を見つけたときは、主戦場が大病院に移りますが、移送前には十分なムンテラが必要です。そんなときに、「先生の御家族なら」と言われてAからBにコロコロ変わる内容など話すでしょうか?現場の医師はわざわざ「先生の御家族なら・・」なんて言われなくとも患者にさまざまな選択肢を提案した中で最善の方法を勧めているはずです。患者さんが不安の中からこういった言葉を発するのは理解できなくもありません。が、その疾患の指導的立場にある医師が公共の場で一般人にこう話しをするのは、「そうでも言わないと現場の医者は本音を言いませんよ」と言っているように感じられて、不快に思うのは私だけでしょうか。まあ考え過ぎかもしれませんが、名もなき戦士の一人としては「もうちょっと現場のことを考えてTVでしゃべってくれよお」と思うのですが?・・。
 次回ペンリレーは先輩医師である秋田組合の桑原先生にお願いしました。
 
 ペンリレー <先生の御家族なら、先生はどうなさいますか?> から