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<ペンリレー>

発行日2006/01/10
こいずみ眼科  小泉敏樹
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ホームズシリーズにみる眼科医コナン・ドイル
 
 一昨年の秋に開業したところ、それまでの勤務医時代の忙しさから一転、空いた時間がかなりできた。そこで以前から読んでおきたいと思っていた推理小説の古典、シャーロック・ホームズシリーズを読み始めたところ、1OO年以上経ても色あせない謎解きのうまさと魅力的なキャラクターにみごとにはまってしまった。
 著者、コナン・ドイルが医師であったことは知っていたが、巻末のあとがきで、自分と同じ眼科を開業していたことを知った。その上、ポーツマス郊外に開業してみたものの、さっぱり患者が来ず、ありあまる暇を利用して書き始め誕生したのがこのホームズシリーズであった、とのこと。なんという偶然!と一瞬思ったが、小説を書くと読むとでは天と地以上の開きがあるのでした。
 では、ホームズシリーズの中から、眼科医の知識・経験によると感じられるところを拾ってみたいと思う。
 まず、わかりやすいところで、短編「金縁の鼻眼鏡」から。老教授邸で見つかった刺殺死体の手には犯人のものと思われる鼻眼鏡が握られていた。ホームズはその眼鏡の特徴から犯人が「鼻いちじるしく肥厚し両眼の位置鼻に接近す。」と推測。また、強度の近視レンズであることから、これを奪われた犯人はほとんど盲目状態で、庭の土に足跡を残さずに逃走したとは考えられない、よって犯人はまだ邸内のどこかに隠れている、と見抜いている。
 また、「銀星号事件」では連戦連勝のダービー馬、銀星号の足の腱に人目につかない傷をつけて次のダービーで負けさせる、つまり八百長を仕組むための小道具として白内障メスが登場する。手元にある「白内障手術史」によると、ドイルが医師であった1800年代後半には現在も行うことのある嚢外摘出術が完成していたので、かなり精密なものであったと思われる。ちなみにこの悪事を企んだ男は危険を察知した馬に頭を蹴られ即死、野原に横たわる謎の死体としてホームズたちを悩ますこととなった。
 「瀕死の探偵」では、ホームズは細菌による毒殺を得意とする犯人を欺くために、目にベラドンナ(アトロピンの原料)をさし、蝋でメイクをして細菌感染した高熱の患者を演じている。
 その他、アヘン患者の縮瞳なども見うけられたが、全体として眼科に偏ったネタは多くはなく、むしろ、親友であるワトソン医師とのやりとりに臨床医であった経験が活かされていると感じる。最後にそのような一節を「赤い輪」から抜粋して終わりたいと思う。(ワトソン)「どういうわけでこんな事件に深入りするのだい?解決してみたって得るところなんかないじゃないか?」(ホームズ)「ないだろうかね?仕事のための仕事さ。君だって誰かを診療するときには、料金のことなんか考えずに、必死に病気と取っくむだろう?」「自分の教育になるからね」「教育に終りはない。教程の連続で、最後には最大のものが控えているのだ。」
(延原 謙訳新潮社版)
 次回は岡田医院の岡田理先生にお願いいたします。
 
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