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<ペンリレー>

発行日2005/06/10
みやざわペインクリニック  宮澤一治
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コンサートヘ行こう!
 
 リパッティの弾くパルティータが静かに聴こえてくる。目を閉じて優雅な気分で…、といきたいところだが、ここはクリニック。ヒマではあるが一応勤務中である。
 開業して一番良かったことは、好きな音楽を聴きながら仕事が出来るということ。クリニックのBGMなので、バッハやスカルラッティなどが多いが、幸運なことにうちの事務さんもその方面に詳しい人なので、「なんとなくラヴェルの気分だったので…」とか言いながら、いろいろ選んで曲をかけてくれる。
 開業して残念なことは、コンサートに行く機会が減ったこと。以前は御茶ノ水で勤務医をしていたため、行きたいコンサートがあれば、逆算して間に合うギリギリの時間までに何とか業務をこなし、息を切らせて会場に駆け込むようなこともしばしばあった。今は勤務医の頃と比べるとはるかに時間を持て余している状態(残念ながら…)だが、なかなかコンサートに行って心身ともにリフレッシュできるような機会がない。自分にとって、すばらしいコンサートにめぐり合えるということは、少し大げさに言えば生きる喜びを感じるようなもの(かなり大げさ?)。胸骨の裏の辺りがキューっと苦しくなり、油断すると涙が落ちてしまいそうになるような演奏にめぐり合えたときは最高の気分。秋田に戻ってきて思うは、以前と比べて秋田でコンサートの開かれる回数が減っているのでは?ということ。大学生の頃は、リヒテルまで秋田に来てくれたことがあったのに…。
 演奏家の好き嫌いは、酒や車の好みと一緒のようなもので、人それぞれだと思う。自分の好きなピアニストは亡くなってしまい(グールド、リヒテル、ホロビッツetc.)聴きに行きたいと思う現役のピアニストは少ないが、そんな中でペンリレーでご紹介いただいた中澤先生と共通でハマっているのが、イーヴォ・ポゴレリッチ。以前「シャイン」という映画で脚光を浴びたディビット・ヘルフゴットを上回るくらいドラマティックな人生を歩んでいる人である。1980年のショパンコンクールで予選落ち、審査員のマルタ・アルゲリッチはその判定が不服でコンクール途中で審査員を辞退したのは有名な話として残っている。その後年上のピアノの師と結婚するが死別し、そのショックで精神を病んで(?)音楽活動休止。そんなエピソードは抜きにしても、このピアニストのコンサートはまったく気が抜けない。もともとコンクールに落ちるような演奏をする人だから、演奏は今でも賛否両論大きく分かれるものだが、彼ほど聴衆を自分の世界へ引きずり込むような演奏家は少ないと思う。いつかのコンサートの時には演奏者の集中力が観客に影響を与えたのか、満席の会場全体に張り詰めた空気が満ち、いつもは耳障りに思う観客の咳払いひとつなく、全員が息を潜め耳を澄ます、そんな状態で自分も息が苦しくなるほどだった。そんな彼が6年ぶりに復帰してコンサートを東京で開くことに決まった。幸運なことにコンサートは日曜日、何としても行くつもりである。
 コンサートの醍醐味は演奏者の息遣いが聞こえるような環境で(バーチャルではない)リアルな音が聴けること。演奏者のコンディションにより、また聴衆の反応もまた演奏者に影響を与え、双方の相互作用により演奏が変わり(恐らく)、文字どおり一期一会であり、二度と同じ演奏は聴けないこと。これはどんなに優れた演奏のCDでもかなわないことだと思う。やはり会場に足を運び、まさにその瞬間に居合わせないと体験できないものである。
 また、アンコールもコンサートの大きな楽しみのひとつ。十八番が含まれてないようなプログラムでも演奏者がノっているときは、観客が「待ってましたっ!」というような曲を演奏してくれたりする。ポリー二のような完壁演奏のピアニストがアンコールで渾身のショパンのエチュードを弾くのを目の当たりにするのは感動ものである(ある意味とってもスリリング)。
 一番最近聴きに行ったアルカディ・ヴォロドスのコンサートでも、アンコールで自身の編曲によるトルコ行進曲をやったときには、聴衆はおそらくCDで演奏は聴いていて、「いったいどうやって弾くのだろう?(千手観音か?)」と誰もが思っていたに違いないその超・超絶技巧の曲を目の前に見せられて、演奏が終わるやいなや割れるような拍手とともに、「ブラボー!」とあちこちから声が上がり、スタンディングオベーションが起き、いつまでも拍手が鳴り止まなかった。そして、興奮冷めやらずといった感で、お互いの感想を楽しそうに話しながら、どの顔も満ち足りた表情で家路に着く…。
 これからもこんな感動を味わうために、コンサート通いを続けようと思う。できれば東京まで行かずとも、すばらしい感動にめぐり合えるように、秋田もがんばっていろいろな人を呼べるようになってほしい(ポゴレリッチも1995年に秋田で弾いている)。そして一生のうち一度でいいからアルゲリッチの弾くラフマニノフの3番コンチェルトのライブ録音のような演奏に遭遇したいと思う。
 次回はアルヴェ4階クリニックフロアで向かいの、「藤盛レィディーズクリニック」藤盛亮寿先生にお願いいたします。

 
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