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<ペンリレー>

発行日2005/05/10
小泉耳鼻咽喉科  小泉達朗
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ロング・ツーリング
 
 あなたにとって一番自由で気ままな旅は?と問われれば、「オートバイによる、テント持参のソロのロング・ツーリング」と答える。
 自分独り、好きに走り、好きな所へ行き、好きな風景を眺め、好きに食べ、好きな所で寝る。「朝、出発の時に、その日の夕方、自分がどこにいるか判らない」そんな旅が楽しい。
 勿論およその目的地や方角は決めてはいるが、あとは状況と気分次第。時には雲の流れを見て道を変え、時には口コミで良い温泉があると聞くとそこへ向い、またある時にはたまたま意気投合した旅仲間と道連れになり、走る。最低限の水と食糧さえあれば、たとえ目的地に着かなくても、日が暮れればそこで寝ればいいのだ。お気に入りの場所が見つかったら、そこに逗留するのもいい。
 決して万人にお薦めできる事でもないし、共感を得られるものでもない。が、しかし、これは一度嵌まると病みつきになる。こうして学生時代からそれこそ日本中を走り回ったが、やはり夏の北海道は格別と言っていい。 夏の北海道は一種独特の雰囲気を醸し出しており、これに魅せられて何度も訪れるライダーは多い。大自然や、地平線までどこまでも真直ぐに続く道路など、他では味わえない風景も勿論だが、それ以上にそこを旅する者や地元の人達との出会いが楽しい。
 この時期、道内あちこちに臨時の簡易宿泊施設ができる。帯広の「かにの家」は有名だが、その他廃線になった鉄道の旧駅舎や、定食屋の裏の山小屋であったりと様々だ。たいがい雑魚寝だが、無料もしくは小銭程度で泊まれる。また1OOO円程度から泊まれる格安の、しかし思いっきり個性的な宿やユースホステルなども多い。キャンプ場もいたる所にあり、傍に温泉の共同浴場のあったりする所も多い。
 こうした所に泊まるのはほとんどが貧乏旅行のオートバイ乗りや自転車乗りだが、鉄道マニアやヒッチハイカー(!)もいる。そこでは毎夜、一夜の仲間達が語り合い、情報交換をし、酒を酌み交わす。普段の生活ではまず接点の無いような人達と話すことは、驚きであり、発見であり、そして何より楽しい。襟裳岬のユースホステルでヘルパーをしていた男は、会社を辞めて1年かけてオートバイで日本一周のつもりでいたが、春に北海道に入ったのに5ヵ月してまだここから出られないでいるという。このぺ一スだと日本一周は何年かかるか判らないですね、と笑った。 糠平湖のキャンプ場で逢った親子は、姉とその婚約者がオートバイで走り、母親と妹がワゴン車で追走していた。来年は夫の海外赴任でしばらく日本を離れるので、その前に日本の素晴らしさを胸に刻み込ませてやりたくて、と母親は語った。
 阿寒湖畔の土産物屋の若女将はやはりオートバイ乗りで、北海道が好きで何度も来るうちに、とうとう結婚して永住する事になってしまったという。そんな人生もありだよね、とさらりと受け入れていた。誰も皆、とびきりの笑顔だった。
 北海道の東端、根室半島の付け根あたりに霧多布岬という小さな岬がある。ある日この岬の先端のキャンプ場に泊まった。夜、近くに焚き火を囲んで歓談する、年令も、オートバイも、ナンバーの地名もバラバラの10人前後の一群がいた。何気なく話をすると、彼等(彼女等)は別に同じグループという訳ではなく、ただ去年このキャンプ場で出会った仲間達だとの事。「来年の同じ日、同じ場所で」の言葉だけで、今年また日本中から集まったのだと言う。あなたも来年も来たらいいですよ、きっとまたこうして集まっているに違いないから、と語る彼がとても羨ましく思えた。自動車競技の ’ラリー’ の語源は ’(散り散りになった仲間達が)再び、集う’ だそうだが、だとするとこれはなんと素敵なラリーだろう。こうして出逢った人達の顔を思い出し、ふと現実を振り返ると、彼等とは最も遠い所にいる自分に気付く。家族ができ開業した今、あの気ままな旅は望むべくもない。いつかまたひとり走り出せる日が来るのだろうか。夏が来る度、国道を荷物満載で走るオートバイを見ると、胸の焼ける様な渇望の想いがこみ上げてくる。引退したらまた日本一周の旅に出ようか、その時は妻とタンデムで行くのもいいかな、でも体力的にちょっと厳しいかな、などと莫迦な妄想をする私なのであった。
 次回は、耳鼻咽喉科の先輩である真崎雅和先生にバトンをお渡ししたいと思います。
 
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