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<ペンリレー>

発行日2005/02/10
きびら内科クリニック  鬼平 聡
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蛇行滑走にあこがれて
 
 最近、スケートにはまっています。
 なんといってもうちのクリニックは県立スケート場に一番近い医院(たぶん)であり、いざとなれば昼休みにも足をのばせるロケーションにあります。
 スケートをはじめたのは小学校の頃で、ふるさとの栃木県今市市(日光市のとなり町)のあたりでは、冬になると田んぼに水をはっただけの簡易スケートリンクがあちこちにみられたものです。父親が高校でアイスホッケー部の顧問をしていたこともあり、父のお下がりのだぶだぶのホッケーシューズを履いていたことを覚えておりますが、当時はへたくそでした。低温かつ降雪のほとんどない栃木県日光地区は、以前は北海道に比肩しうる本州一のアイスホッケーメッカであり、昔の同級生にも上手なスケーターが多く、体育の授業でスケートがあったりすると、悔しい思いをしていたことを思い出します。
 秋田大学へ入学した昭和53年頃には、一部のリッチな医学生は、マイカーでスキーへでかける時代となっておりましたが、貧乏学生の私はマイカーもなく、そのうち向浜に東洋一の屋内スケート場があることを知り、下宿の友人たちと自転車で出かけることとなりました。
 しばらくぶりのスケート靴は、リンクの貸し靴でしたが、まったくいうことをきいてくれず、小学生当時の悔しい思い出がふつふつとよみがえってきました。その一方、秋田にはこんな立派なリンクもあることだし、少し練習をして、栃木の幼なじみたちを見返したいという気持ちもわいてきました。数度、リンクに通い、貸し靴で練習をするうちに、貸し靴では10分もするとまめができるし、エッヂもまったくきかないことに閉口するようになりました。実際エッヂをさわってみても、いつ研いだかわからないような鈍な手触りしかありません。周りの上手なスケーターたちを眺めてみてると、当然ながら皆マイ・シューズを履いていることに気がつきました。
 自分がへたなことを棚にあげて、道具のせいにするのは、どんな分野でもみられるありふれた現象です。でも道具は大切なもので、なけなしの貯金一万円をはたいて購入した靴は、国産のホッケー靴でしたが、エッヂを研いでもらったこの靴は、体重を少し左右にかけるだけで、シャープに曲がってくれ、やっとホッケースケーティングらしいターンができるようになってきたと、大いに満足させてくれました。ただ、ターン時の足首の固定が不安定な感がありました。左ターンでは問題がないものの、右ターンがうまくいかない、というジレンマを感じるようになりました。そこでまた、周りの上手なホッケー選手の足下を注目しているうち、はたとあることに気がつきました。うまい連中は皆、白い靴底の同じ型のホッケー靴を履いていることに気がついたのです!一方自分の靴底が黒く、全く外観が違っていました。
 秋田の有名スポーツ店を何件かはしごしてみましたが、目にはいるのは、自分と同じ、黒い靴底の国産品だけでした。元アイスホッケー部顧問だった父親に、電話で問い合わせたところ、ホッケー選手の多くがCCMというメーカーのカナダ製メーカーのシューズを使っているとの情報を入手しました。カタログを取り寄せたら、なんと靴底の白いシューズが並んでいるではありませんか!早速父親に泣きついて、まじめに勉強するからという約束のもと、当時5万7千円もしたっCMの最高級モデルSuperTacksを手にすることができました。このモデルは靴の内ばりにカンガルーの皮を使っており、これも心をくすぐりました。
 わくわくしながらリンクヘ出かけ、はいてびっくり以前の国産スケート靴とは別物で、CCMが靴なら以前はいていた国産物はまるでスリッパみたいな違いがありました。足首の固定がしっかりしており、早速氷に乗ってみると、これまで苦労していた片足スケーティングもできるようになりました(きき足の左だけでしたが・・・)。左ターンは気分よく、さて、右ターンにチャレンジすると、やっぱりうまくいきません。ここでやっと道具の問題ではなく、自分の技術の問題だという事実に直面することとなりました。また、CCMを履いていた当時のホッケーの選手たちが、横を滑り抜けていく際に、私の履いている靴に一瞥くれていくのも非常に気になりました。こりゃ靴に負けない滑りをしなきゃいけない。そんなプレッシャーを感じながら、毎シーズン50回程度もスケートリンクヘ通いました。おかげでリンクの順方向、左ターンだけはホッケー選手と同じようなレベルとなりましたが、残念ながら右ターンを克服できず、6年間の学生生活を終えることとなりました。なぜ、右ターンがうまくいかなかったかといいますと、自分が左ききであり、右ターンで体重のかかる右足でのバランスが今ひとつだったことと、もう一つの最大の要因は、約25年前の秋田スケート場の規制がありました。なぜそんな唐突な、と思われるでしょうが、当時の秋田県立スケート場の規制には、逆走禁止(これは当たり前)のみならず、蛇行禁止、急ブレーキ禁止という条項がありました。左周りのスケート場で、右ターンを練習する場合には、部分的逆走になるか、蛇行になるか、どちらかになるわけで、それが禁じられていたのです。そんな規制を気にする必要あるかと思われるでしょうが、当時は監視員がおり、蛇行や急ブレーキをみつけると、怒鳴りつけてくるか、マイクで館内放送をかけ、「リンクの東側で蛇行をしている青い服、やめなさい!!」と全館放送をかけていたのです。実際、私、何度もどなられました。一度は同級生を見かけて普通にブレーキをかけてとまっただけなのに、監視官から「急ブレーキはするな!!」といきなり罵声をあびせられ、反論したところ事務室まで引っ張ら、一時間も説教されてしまいました。こちらも頭に血が上っておりましたので、当時の江川卓氏の言葉を拝借し、「興奮しないでください!」と申し上げたところ、火に油を注ぐ結果となり、あわや入場禁止のブラックリストにあげられそうになってしまいました。
 ちなみに蛇行禁止、急ブレーキ禁止など、そんなアホなことをいうリンクは当時の秋田県立スケート場をおいて、他にはしりません。蛇行や急ブレーキを禁止したら、ホッケーの練習になりませんし、ちなみに現在の秋田県立スケート場も、そんな無粋な館内放送はしておりません。
 医学部卒業をすると同時に、リンクに足を運ぶ時間はなくなりました。ところが、昨年8月に開業をし、冬を迎えてみると、昔懐かしい秋田県立スケート場がクリニックのすぐそばにあるではありませんか。昨シーズン、久しぶりに氷に乗ってみると、相変わらず右ターンがへたくそで、からだも随分重くなってしまったようでした。ただ「蛇行するな!」とか「急ブレーキはやめろ!」の罵声もなく、運動不足解消には丁度いいや、と再びリンクに通いはじめました。ただ、随分と古くなってしまったCCMの靴に違和感があり、靴を新調する決心をしました。昨年正月、里帰りの際、アイスホッケー専門店のグレートスケート(あやしい名前でも、日光アイスバックスという日本リーグチームの御用達店)今市店にいってみることにしました。すると、秋田市のスポーツ店ではけっしてお目にかかれない、さまざまなスケート靴やらホッケースティックなどが、ところ狭しと並んでおりました。どれにしようか悩んでいたところ、日本語の達者なカナダ人店長が近づいてきて、「どこのメーカーの靴いいですか、これまで何はいてましたか」と聞かれ、これまでCCMを履いていたが最近しっくりこないことを話したところ、Bauerというカナダメーカーから超軽量モデルなるものが出たことを教えてくれました。最近、秋田のホッケー選手の間でも、Bauerユーザーが増えていることは目にしておりましたので、それでもいいか、軽量なのもいいや、ということで5万5千円(25年前とほとんど値段がかわってない?!)で購入を決断、こうして現在の私のシューズはBauer社VaporXXとなっております。
 この靴、従来のCCMと随分エッヂや靴の形状も異なり、最初の一時間は転んでばかりおりましたが、なれるとフィット感ばっちりで、ジョギングシューズのように軽く(ちょっと大袈裟か)、以前あれほど苦労していた利き足と逆の、右足での片足スケーティング(片足だけ左右ターン、前後に滑りながら)もまずまずできるようになりました。ちなみに昨年の冬には、キムタクのプライドというドラマでアイスホッケーがとりあげられておりましたが、彼が履いていたのが私の靴と同じBauer社VaporXXでした。
 結局、昨シーズンはかなり手応えを感じながら3月末を迎え、その後スケートオフシーズンにはローラーブレード(ローラーが縦に一列ならんだローラースケート)での滑り込みを行ってきました。そして10月末から始まった今スケートシーズンでは、左ターンの8割程度のできではありますが、やっと納得のいく右ターンができるようになりました。右ターン、左ターンを繰り返し、まずまずの蛇行滑走を楽しめるようになりました(もちろんバックスケーティングでの蛇行滑走もです)。途中約20年のブランクを乗り越えて、やっと自分なりのスケーティングができるようになったようです。だれが褒めてくれるわけでもありませんが、自分だけでもよくやったと褒めてやろうと考えております。
 秋田県立スケート場で、蛇行滑走を繰り返す怪しい中年スケーターをみかけたら、それは私かもしれません。
 次回のペンリレーは、秋田大学医学部時代の同級生、秋田県立リハビリテーション精神医療センターの中澤操先生にお願いいたしました。
 
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